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3.11を心に刻んで

米倉一磨

「さびしいな」
(原発事故で畜産業を畳み、避難先で妻を亡くしたAさんの言葉)

*  *


 震災4年後、アルコールへの依存が原因でAさんの妻が亡くなった。そしてAさんもアルコール依存症だった。私は「心のケア」を専門とする看護師として、震災後の住民のケアを行っている。Aさんの妻が亡くなった年の夏、住まいのある市からAさんのケアを依頼され、支援をはじめた。
 最初の出会いは忘れられない。自宅へ訪問し名刺を渡そうとすると「来なくていい」と怒鳴った。一切の支援を拒否したAさんに自殺の危険性は高かった。しかし、偶然にも私たちの「相馬広域こころのケアセンターなごみ」事務所を医療機関と勘違いしてやってきたAさんが、私と再会してしまったことから徐々に打ち解けていった。精神科医に症状を正確に伝えられるよう受診に同席するなどして、アルコールを徐々に減らしていけるよう支援を続けた。孤立しないよう、なるべく多くの支援者と訪問し、周囲に支えがあることを感じてもらおうとした。疎遠だった家族とも話し合いを持った。それでも彼は「さびしい」と言う。健康管理のためAさんと一緒に数か月間つけてきた自己管理票をみると、お酒の量やイライラなどの症状は軽減されている。しかし、さびしさの項目には変化がない。
 患者を医療につなげば症状は確かに軽減される。カウンセリングや、専門家が短時間話を聞くだけの支援では、回復に向かうことは難しいこともある。高齢者サービスにつなげば支援は受けられる。しかし「さびしさ」はそう簡単に軽減されない。彼は先祖代々続く土地と畜産業で働く役割と、そして妻とをいっときに亡くした。当然、最後に残るのはさびしさである。さびしさは、薬や他人ではそう簡単に軽減されない。
 今、私の地域の「心のケア」は、震災後の心ケアに加え、男性の孤立やひきこもり、認知症、精神疾患など全国のどこにでもある「心のケア」の問題にも取り組んでいる。そこで実感するのは、医療や既存のサービスでは解決できないことがたくさんあり、一人ひとりの生活の全般に支えが必要とされていることだ。

(よねくら かずま・「相馬広域こころのケアセンターなごみ」センター長)

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