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3.11を心に刻んで

林家たい平〈3.11を心に刻んで〉

「人が一番嬉しいと感じるのは、どういう時か知っていますか? 人が一番嬉しいと感じるのは、人を助けた時と、人から助けられた時です」
(震災の春、娘の小学校卒業式での校長先生の言葉)

*  *


 東日本大震災が起きた春、娘はもう何日かで小学校の卒業式をむかえていました。が、原発事故で表に出ることもままならない。中止になりかけていた卒業式をなんとか開いてあげたい。そんな想いで卒業生と親だけのささやかな式を放射能の数値の少ない時を見計らって開いて下さいました。その時の校長先生のお言葉です。そこに出席していたすべての人が、先の見えない不安におびえていた時、何をどうしたらいいか判らなくなっている時に出会った言葉でした。
 大学四年になった春、落語家になろうか迷いながら旅をしました。石巻の老人施設で僕の落語を聴いたおじいちゃんおばあちゃんから、笑顔をもらったのが決定打となり、日和山の上から石巻の街に向かって、落語家になることを誓いました。落語家・林家たい平を作ってくれた街。校長先生の言葉に背中を押され、誰かの何かの助けになれればいいと、震災から1カ月後、石巻を目指しました。
 訪ねた大街道小学校、1年生から6年生まで、みんなにこの言葉に出会ってほしいと、黒板に書きました。たくさん助けられた人は、助ける側にまわったら、たくさんの人を助けられる人になれる!って。大変な状況のなか、石巻では以来親友と呼べるような仲間ができました。「今はたい平ちゃんに応援されてるけど、いつか応援する方にまわるからね」
 それから4年、都内の寄席でトリを取っていたある晩、楽屋に入ろうとしたら入口に大型バスが止まっています。なんだろうとプレートを見たら「石巻たい平応援隊ご一行様」と書かれていました。あの日の気持ちは一生忘れません。去年から誰かの何かになれればと、東北・みやぎ復興マラソンを走っています。一番苦しいところに、石巻から「たい平応援隊」の皆さんが横断幕を持って待っていてくれます。いつの間にか、僕の方が助けられることが多くなってしまった気がします。やっぱり嬉しい、助けた時と、助けられた時が。

(はやしや たいへい・落語家)

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