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3.11を心に刻んで

工藤律子〈3.11を心に刻んで〉

 失ったものも多いけど、得たものもたくさんあるし、おかげで私も変わることができた。以前なら、死ぬまでここにいるだけだと思っていたけど、みなさんにも出会えたし……
(石巻市で漁業を営む阿部弘子さん

*  *


 2013年秋。伊達政宗の命を受け、支倉常長率いる「慶長遣欧使節」がメキシコへ向けて出航した入江、宮城県石巻市月浦で、阿部喜久男さん・弘子さん夫妻と出会った。「使節」出航からちょうど400年目にあたる日だ。津波の爪痕の残る浜辺を歩きながら、弘子さんは、初対面の私とパートナーでフォトジャーナリストの篠田有史を相手に、冒頭の話をしてくれた。避難先で多くの人に助けられ、出会いの大切さを痛感したので、自分も人のためにできることをしていきたいと言い添える。
 阿部さん夫妻は、震災前、浜に建つ自宅で暮らし、牡蠣の養殖を営んでいた。津波にすべてを奪われ、災害危険区域に指定されて家の再建もできなくなった今は、自宅跡にプレハブの仮住まいを造り、ウイークデーだけそこに寝泊まりして定置網漁に携わる。土日は仙台のマンションで過ごす。
 「慶長遣欧使節」の取材で知り合って以来、私たちは毎年1度、食材片手に月浦の夫妻を訪ねてパエリアを作り、用意された新鮮な魚や牡蠣、喜久男さんの好きな日本酒と一緒に楽しみながら、おしゃべりにふける。出会ったのは、3・11直後でも被災地取材を通してでもないが、私にとっては夫妻とのつながりこそが、3・11を考えつづける強い動機のひとつだ。
 人は、直接・間接的に、さまざまな人と関わりあいながら、人生を歩んでいる。道中、意図せずして失うつながりもあれば、大事にすることで新たな発見や出会いを生み出すつながりもあるだろう。だがどんなときも、それらのつながりの「原点」と「その先にあるもの」を大切にしながら一歩ずつ進んでいけば、より良い生、より良い社会を生きることができるのではないか。阿部夫妻との出会いは、私の中でそんな思いを強めてくれた。

(くどう りつこ・ジャーナリスト)

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