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世界のおすもうさん

序文〈世界のおすもうさん〉

 
 「おすもうさん」という呼称は、いつから使われているんだろう?
 相撲をする人を、平安時代には「相撲人(すまいびと)」と呼んだ。相撲は当時、宮中の祭礼だった。相撲を生業にする人が末期の頃に生まれた室町時代には単に「相撲」や「相撲取」と呼ぶようになり、江戸時代に大相撲興行制度が確立すると「力士」と呼ぶことも増えた。そうしたいずれかの時代に「おすもうさん」という呼称が生まれたのだろう。
 朝日新聞のアーカイブを探ってみたら明治三一(1898)年三月五日の記事に「お相撲さん」という言葉が出てくるし、さらに大正七(1918)年には『お相撲さん物語』(小泉葵南(三郎)著、泰山房)という本も出版されていた。
 明治大正時代には既にごく普通にそう呼んだ。「相撲」と呼び捨てにするのではなく、「お」と「さん」を付けて呼んだのは、人々がいかに親しみと尊敬の気持ちを力士に抱いてきたかを示している。「おすもうさん」は私たち社会と共にあり続け、愛されてきた。
 そして、おすもうさんは日本のみならず、世界のあちこちでも生まれている。よく知られるモンゴルだけでなく、エジプトでも中国でもトルコでもセネガルでも韓国でも。スイスやインドやベトナムでも。私たちが「おすもうさん」と呼んだときに想像する、大相撲の髷を結ってまわしを巻いたプロの人たちだけでなく、色々な様式の下で相撲を取るおすもうさんがいる。
 さらには日本国内でも大相撲だけでなく、小学生~大学生、社会人のアマチュア相撲大会や、神社などでの祭儀相撲が通年で行われ、おすもうさんは日本津々浦々にいる。
 今回、私、和田靜香と金井真紀の二人は、そうした世界と日本のおすもうさんを訪ね、おすもうさんの生活や人生や歴史や社会背景などを探っていこうと思っている。
 
  しかし、世界の相撲をする人たち、しかも相撲を生業としていない人たちをも一様に「おすもうさん」と呼んでいいのか? 
 これには、相撲研究で知られる新田一郎先生の『相撲の歴史』(山川出版)にある、「文献上『相撲』と表現されたものを解釈する際に、現代の『日本相撲』に引きつけすぎることは、厳にいましめねばならない」という言葉を勝手ながら借り、解釈を広げ、「そうだそうだ!『おすもうさん』と表現されたものを、現代の大相撲に引きつけすぎることも厳にいましめねばならないのだ、エイエイオー!」と勝手ながら叫ばせてもらうことにする。
 
 世界のおすもうさんを訪ねて歩く相撲を愛する私たちの旅。どうぞよろしく見守ってください。
 
 著者を代表して和田靜香

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著者略歴

  1. 和田靜香

    音楽/相撲コラムニスト。著書に『ワガママな病人vsつかえない医者』(文春文庫)、『おでんの汁にウツを沈めて』(幻冬舎文庫)、「音楽に恋をして♪ 評伝・湯川れい子」(朝日新聞出版)など。相撲に関しては『スー女のみかた――相撲ってなんて面白い!』(シンコ―ミュージック・エンタテイメント、2017年)をはじめ数多くのエッセイ/コラムを執筆している。

  2. 金井真紀

    文筆家/イラストレーター。著書に『世界はフムフムで満ちている』(皓星社)、『酒場學校の日々』(皓星社)、『はたらく動物と』(ころから)、『パリのすてきなおじさん』(柏書房)、『子どもおもしろ歳時記』(理論社)、『サッカーことばランド』(ころから)、『虫ぎらいはなおるかな?』(理論社)がある。任務は「多様性をおもしろがること」。

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