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3.11を心に刻んで

島 田 恵〈3.11を心に刻んで〉

残してぇのは、自然だ。きれいな海。山。海と山さえ残っていれば、ここは生きていける。東京だの大阪だの大都会で電気必要なら、原発あそこで作ってればいいべ。
(青森県六ヶ所村で核燃料サイクル基地建設に反対してきた、 漁師の故滝口栄作さんの言葉)
*  *
青森県六ヶ所村には、世界最大級の原子力施設が集中立地する核燃料サイクル基地があります。チェルノブイリ原発事故後、地元では猛烈な反対運動が起こりましたが、原発の廃棄物=核のゴミ捨て場に困っていた電力業界や国の圧倒的な権力金力によって、強引に建設されてきました。冒頭は、最後まで反対を貫いてきた漁師の滝口さんの言葉です。私の映画「福島 六ヶ所 未来への伝言」に収録されています。
豊かさや便利さの追求は人類の進歩である反面、私たちはあまりにもそのことだけを追い求め、何かを忘れてきてしまったと思えてなりません。そのことを教えてくれたのが東日本大震災でした。津波で家や家族を流された方々が必死に探していたものは、お金や通帳ではなく、写真や思い出の品々でした。その姿は、私たちにとって本当に大事なものは何なのかを、あらためて教えてくれたように思います。故郷の自然や人々のつながり……。それはお金では買えないかけがえのないものでした。
福島原発事故は、経済優先社会が引き起こした惨状を見せつけました。それでも日本は原発を手放そうとしません。原発はたとえ事故がなくても、日々膨大な放射性廃棄物=核のゴミを生み出します。その究極は何十万年以上も毒性が消えないという高レベル放射性廃棄物でしょう。いま世界中が頭を悩ませているこの危険な核のゴミ問題を、私は「チャルカ──未来を紡ぐ糸車」という映画で描きました。六ヶ所村は「核燃料サイクル基地」という名のもとに、日本の核のゴミ捨て場にされようとしています。
戦後の急速な経済発展により、私たちの生活は豊かになりました。しかしそれは、原発や基地の立地に象徴されるように、地方の自然破壊と犠牲の上に成り立ってきました。福島原発の電気は東京に送られ、その放射性廃棄物が青森県へ運ばれています。
3.11は、この社会と私たちの生き方をあらためて問う日となりました。一人ひとりの日々の営みと一つ一つの選択は、くさりのように横につながっていて、それはまた未来へもつながっているということ。このことを今こそしっかり意識し直したいと思うのです。
 
(しまだ けい・写真家、ドキュメンタリー映画監督)
*公式サイト=http://shimadakei.geo.jp/

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