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3.11を心に刻んで

阿部浩美〈3.11を心に刻んで〉

古里に戻りたいという避難者の意識は、解除への道のりが遠いほど薄れる。……十年目に入っても、なお長い年月を想定する姿勢は、被災地の現実とあまりにかけ離れている。……全域解除の道筋を早期に示すべきだ。
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「みんなのデータサイト出版として、私たちが2018年11月に発行した『図説17都県 放射能測定マップ+読み解き集』が、この4月に増補版を発行する運びとなりました。初版も含めての累計発行部数が2万部を超えることになり、出版の素人の本にこれほどの反応があったことは異例のことと思います。
 この本のどういった点が、一般の人々を惹きつけたのか。メインコンテンツである、東日本17都県土壌放射能マップの視覚的な分かりやすさ、地域ごとの放射能濃度を直観的に把握できる点が良かったのかもしれません。その土壌放射能マップをあらためて見ると、帰還困難区域周辺の放射能濃度の高さに否が応でも目を奪われます。それは、2111年時点での放射能濃度を描きだした、減衰推計100年マップでよりはっきりします。100年経っても、東京電力福島第一原子力発電所が放出した放射能の影響は無くなってはいないからです。
 減衰推計100年マップが示す長期的な放射能の影響を見ると、今また福島県のエスタブリッシュメント(権威筋)層から発信される復興像に、釈然としないものを感じます。彼らが述べる福島の復興のあるべき姿とは、避難解除の地域が拡大し、帰還困難区域のすべてが解消されることです。これまでは半減期2年のCs(セシウム)-134の減衰が顕著だったので、原発事故から9年を経たことで目に見えて空間線量が下がりました。このことが彼らに帰還困難区域の解消という夢を見させているのかもしれません。しかし、今後は半減期30年のCs-137の長期的な影響が継続し、100年経ってもCs-137は存在し続けます。
 福島の地元メディアには、「東京と被災地との乖離」という文言がたびたび踊りますが、それこそ福島のエスタブリッシュメントたちの主張と避難地域の現実も隔絶しているのではないでしょうか。彼らは、3.11直後から現実を見ていないのかもしれません。
 
(あべひろみ・「みんなのデータサイト」共同代表)

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