web岩波 たねをまく

岩波書店のWEBマガジン「たねをまく」

MENU

3.11を心に刻んで

礒野弥生〈3.11を心に刻んで〉

「環境問題は、それぞれのレベルで、関心のある全ての市民が参加することにより最も適切に扱われる。国内レベルでは、各個人が、有害物質や地域社会における活動の情報を含め、公共機関が有している環境関連情報を適切に入手し、そして、意志決定過程に参加する機会を有しなくてはならない。」
(リオ宣言第10原則より。訳:環境省)
*  *
日本で最も深刻な公害といわれる福島原発事故。発災から9年の月日が流れました。東日本の多くの地域で、「放射能で汚染された土壌」を剥ぎ取り、木の枝を払い、下草を取り、屋根等の放射性物質をふき取りあるいは高圧洗浄し、という除染作業が大々的に行われました。その後、2017年には避難指示区域で、帰還困難区域を残して避難指示が解除されました。福島の住民にとっては、避難したにせよ、居住し続けたにせよ、放射能被害で翻弄され続けた年月だと、実感しています。
 発災の年、子ども達のためにと、保育園の園庭や住宅地の側溝を必死に除染されていた住民の様子が忘れられません。「放射能のない元の土に戻して欲しい」という農家の要求には、身につまされました。帰還困難区域の浪江町津島の住民は、「全ての除染で全員でふるさとに戻る」ことを求めて裁判中です。除染土壌が中間貯蔵施設に運び込まれる一方、「福島復興のために」と地上権を設定する方法で土地を同施設用地に提供した方々等は、「(搬入開始から)30年後に本当に原状回復して戻されるよう」、環境省と交渉を続けています。多くの人が放射能について口を閉ざす一方で、放射線量を測定し、発信し続けている人々がいます。
 今、国は貯め続けた放射能汚染水の海への放出を考えています。また、巨額の費用と時間をかけて集めた除染土壌のうち、8000ベクレル/㎏以下のものを再び農地の底地や道路の路盤材として利用する実証実験中です。
 そして、未だ4万人以上の方が避難中です。浜通りでは、農業のできなくなった土地が太陽光発電施設に占領され、住民ならぬ廃炉関係者用の貸家やアパートが目につきます。避難中の人の住宅補助が打ち切られ、国や県から住居の明渡請求訴訟を提起される避難者も出てきています。
 人々は未だ、被災中です。しかし、復興のための政策決定に、当事者たる住民は、かかわる機会を殆ど与えられてきませんでした。
 さて、上の引用文は、「環境と開発に関する国連会議」(1992年、UNCED)で出されたリオ宣言(Rio Declaration on Environment and Development)第10原則の一部です。私達市民の意見抜きに環境問題を解決できない、と述べています。そのために、市民が情報を共有し、環境に影響のある決定に当事者として関わり、おかしな決定であれば裁判でそれを糺す。これができて初めて、環境の維持、再生が可能なのです。各国は、この原則にしたがって国内法を整備することが求められています。
 一方、原発政策は「専門家」の専門性に委ねられてきました。その結果、東日本一帯の野山、河川、家屋敷を放射能で汚染し、人々や動物を被ばくさせ、さらに日常生活を奪いました。この事故が、ごく一部の専門家による思い込み政策の失敗であることは明らかです。再び安心して暮らせる福島の環境を取り戻すために、被災当事者が「おいてけぼり」にされてはなりません。そして「第10原則」の参加型民主主義を実現することこそ、今私達に求められているのではないでしょうか。
 
(いその やよい・行政法・環境法)

タグ

バックナンバー

閉じる