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3.11を心に刻んで

小沼通二〈3.11を心に刻んで〉

いつぜむ青白き光を深く秘め原子炉六基の白亜つらなる
(佐藤祐禎『歌集 青白き光』短歌新聞社、2004年。いりの舎、2011年)
*  *
3.11の9年前につくられたこの短歌は、福島第一原子力発電所から3.4キロの大熊町で農業を営んでいた歌人佐藤祐禎さん(1929〜2013)の第一歌集にある。再版に際し「どこかで必ず事故は起こると確信してはいたが、かく言う私の地元になろうとは、夢にも思っていなかったのは不覚だった」と書いた佐藤さんは、家族ばらばらの避難先のいわき市で亡くなった。
 私は2012年に、福島市で開かれた佐藤さんの短歌と貝原浩さんの画文集『風しもの村—— チェルノブイリ・スケッチ』(パロル舎、2010年)の原画の展覧会で、この短歌に出会った。写真家の大石芳野さんと詩人で作家の辻井喬さんと一緒に、南相馬市で開いた世界平和アピール七人委員会講演会に向かう途中だった。
 この年には講演会準備に3回福島県を訪問し、あわせて県内各地で写真撮影を続けていた大石さんの仕事ぶりを間近に見て、多くの被災者から直接話をうかがうことができた。このときに見た、壊れたままの防波堤と無人の海岸、傾いたりつぶれたりした家屋の村や町、荒れ果てた田畑に生い茂る草木、草に覆われさびついた線路など、地震と津波と放射能の複合災害によって3.11直後から時間が止まってしまっていた風景と、お会いした人々の写真が、大石さんの『福島  FUKUSHIMA 土と生きる』(藤原書店、2013年)には少なくない。
 40年、延長しても最長60年、の利用に対して、後始末に10万年という原子力発電は、どう見ても健全とは言えず、人口激減の今後の日本に遺してはいけない負の遺産なのだ。気候危機や核兵器や戦争とともに原子力利用も人の営みだから、なくす努力を重ね、機会を捕えれば必ず廃絶できる。
 これに対し地震、津波、火山噴火、現在起きている感染症の蔓延などは自然災害である。人類社会を繰り返し襲ってきたし、これからも必ず起こる。自然災害への備えは政治と社会の究極の最優先課題だ。
 
(こぬま みちじ・物理学者)

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