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3.11を心に刻んで

鈴木江理子〈3.11を心に刻んで〉

日本の全員でのりこえる。そのための場所をつくりました。
(ソフトバンク CM 復興支援ポータルサイト「星空」篇)
*  *
東日本大震災発生当日の夕方、菅直人首相(当時)が発したメッセージの呼びかけは「国民の皆様」であった。政権与党であった民主党は、発災直後から「がんばれNIPPON」という標語を打ち出し、党のHPのトップページには、「いまこそ、国民の生活が第一。」という言葉が大きく表示された。

 けれども、日本にいるのは「国民」だけではない。2010年末現在の外国人登録者数は213万4151人、2011年3月15日現在の災害救助法適用市町村の外国人登録者数は7万5281人である。さらに、この数値に含まれていない外国人観光客なども含めて、「国民」同様に被災したり、愛する家族や友人を失うなど、様々な困難に直面した外国人が多数いたはずである。
 実際、震災直後から多言語情報が発信され、救援物資の配布や炊出し、メンタルケアや就労支援など、時間の経過とともに変化する被災者のニーズに合わせた多岐にわたる外国人支援が、NPOや国際交流協会、宗教組織や弁護士団体など多様な主体によって行われた。この点は、阪神・淡路大震災との大きな違いであり、日本社会の多文化化とともに、グラスルーツ的な外国人支援が地域社会に浸透し、活動の実践が蓄積されてきたことの証左ともいえよう。少なくともこれらの活動に携わる人びとは、日本社会には日本語を母語とする日本人以外の人びとがいることを知っていたのである。
 さらに、様々な国・地域にルーツをもつ外国人による被災地支援が行われたことも、東日本大震災の特徴であった。16年前の大震災の時には、主に「支援される側」であったニューカマー外国人が、「支援者」として活動するまでになっていたのだ。自身の日々の生活にすら余裕があるとはいえない彼/彼女らを支援活動に駆り立てたのは、日本の復興に役立ちたいという強い思いであり、日本社会の一員である──あるいは、ありたい──という帰属意識であったのではないだろうか。
 けれども残念ながら、復興に向けた大きな流れのなかで、外国人の存在は社会の周辺に追いやられ、大多数の人々の意識から忘れ去られてしまいがちであった。彼/彼女らも「オールジャパン」の構成員であるにもかかわらず──。

 冒頭で挙げたメッセージは、震災後に制作された復興CMからの引用である。当然のように「国民」という言葉が氾濫するなかで、「日本の全員」という言葉に、筆者は強い感銘を受けた。震災という非常事態(非日常)から日常への道は、まさに「日本の全員」で力を合わせて歩むべきものであろう。
 現在、日本で暮らす外国人はさらに増え、住民登録対象外の正規・非正規滞在者を含めて、300万人を超える外国人が生活している。国際結婚や日本国籍取得者の増加により、外国ルーツの日本人も増加傾向にある。罹災と同様、罹患の脅威は、国籍や民族、母語を超えたものである。「日本の全員でのりこえる」──新型コロナウイルス感染症拡大という新たな困難に直面している日本において、改めてこの言葉を心にとどめたい。
 
(すずき えりこ・移民政策研究者・NPO活動家)

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