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3.11を心に刻んで

田井中雅人

もう隠し事はやめて、事実に向き合う必要があります。〔……〕レーガン事件は今世代の「エージェント・オレンジ」に匹敵するだけの事件なのです。
(田井中雅人/エィミ・ツジモト著『漂流するトモダチ──アメリカの被ばく裁判』第2章、朝日新聞出版)

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 東日本大震災発生直後の約1カ月間、原子力空母ロナルド・レーガンなど25隻の米軍艦船で約1万7000人の米兵らが、日本の自衛隊員らとともに救援活動「トモダチ作戦」を実施した。彼らは空母レーガンの艦内にあったペットボトル入り飲料水や食糧、衣類などをヘリコプターで東北地方の被災地に届けた。トモダチ作戦を通じて日米両政府は、「日米同盟の固い絆」を高らかに歌い上げた。
 だが、トモダチ作戦に参加した米兵らは、メルトダウンした福島第1原発から放出された放射性プルーム(高レベルの放射性物質を多量に含む雲)を浴びて外部被曝したり、空母レーガンの艦内で放射性物質に汚染された海水(脱塩蒸留水)を飲んで内部被曝したりした恐れがある。彼らは、その後、甲状腺疾患や白血病、がんなど様々な病気を発症。「原発を運転した東京電力が、原発事故についての正確な情報を出さなかったため、危険なレベルまで被曝させられた」として、東電や日米の原発メーカーを相手取り、医療基金設立などを求めて米国の裁判所で争っている。2017年末までに、原告約400人のうち23人ががんを発症、9人が死亡している。
 空母レーガンの士官だったスティーブ・シモンズさんも原告団に加わっている。2011年末、ワシントンで車を運転中に突然意識を失った。高熱が続き、体重が激減、膀胱不全、脱毛。さらに筋肉を切り裂くような痛みが腕や胸にも広がったが、米軍の医師らは「原因不明」とするばかりで、放射線被曝の話題を避け続ける。米軍・国防総省は2014年の最終報告書で、レーガンの乗組員らの病気の多発とトモダチ作戦による被曝の因果関係はないと結論づけた。一方、民間の専門医は、シモンズさんの症状について被曝の影響を認め、症状の広がりを抑えるために両脚の切断手術をした。シモンズさんは、ベトナム戦争で米軍が使った「エージェント・オレンジ(枯れ葉剤)」の人体への悪影響を、米政府・軍が認めようとしなかったことと重なる「事件」だと訴えている。
 日米同盟の絆を象徴するものとして英雄視されたトモダチが今、米国で見捨てられ、日本でも忘れられ、漂流しているように見える。それでも彼らは、米国の裁判所に訴えることで、「フクシマの人々の『傘』になりたい」という。米国の裁判には「ディスカバリー(証拠開示)制度」があり、まだ隠されている原発事故にまつわるデータを東電などに強制的に開示させることができる。彼らは自分たちの事例が、甲状腺疾患など様々な健康被害を訴えながら、日本政府や東電、専門家らによって「因果関係はない」「わからない」と切り捨てられている日本の人々にとって、重要な先行事例となる可能性があると考えている。まるで暗闇で警告を発する「炭鉱のカナリア」である。
 不都合なデータをアンダーコントロールして、トモダチを使い捨てる。米兵たちの訴えはニチベイドウメイの本質をも問うている。

(たいなか まさと・新聞記者)

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