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『科学』8月号 【特集】原発事故は“検証”されたのか

◇目次◇

原発事故検証の考え方とは……池内 了
 原発事故賠償をあらためて検証する ――被害者集団訴訟の取り組みに着目して……除本理史
津波対策を先送りしたのは誰か――開示文書から“根本原因”に迫る ……添田孝史
地震動の想定で議論すべきこと……纐纈一起 「東京電力柏崎刈羽原発再稼働問題」ウォッチ No. 2
新潟県の検証継続は維持されたが…… ――問われる規制委員会の姿勢,拭えない東京電力の「適格性」への疑念……田中三彦
原発“経済神話”の崩壊――保険に映った虚像と手に負えない現実 ……本間照光
甲状腺がんの検証は継続されなければならない……木村真三
東京電力原発事故の情報公開 No. 41 県民健康調査の情報公開……木野龍逸

巻頭エッセイ  沖縄島辺野古・大浦湾の危機から……安部真理子・大久保奈弥

幻獣遊学天空を彩る鳳凰……大村次郷
これは「復興」ですか?村祭りの風景から……豊田直巳
ちびっこチンパンジーと仲間たちちびっこチンパンジーたちの18年 ……林 美里,高島友子,打越万喜子,前田典彦,鈴木樹理,友永雅己,松沢哲郎
続・腸内細菌に聞け!――メタボと老化を腸から考える 腸内細菌代謝物と高血圧・動脈硬化……小澤祥司
科学者の社会的責任……藤垣裕子
3.11以後の科学リテラシー……牧野淳一郎
失われゆく原子力発電の正当性と将来性原子力発電技術が日本の安全保障の一翼を担っているという 不愉快な戯言(2)――原爆の製作を「お茶の子さいさい」だと考えている人たちへ……佐藤 暁
科学技術・イノベーション政策のためにふりかざされる大学ダメ論がダメな理由……小林信一

[科学通信]
〈リレーエッセイ〉地球を俯瞰する自然地理学 流域流砂系から自然環境を診る……小玉芳敬
〈リレーエッセイ〉地球を俯瞰する自然地理学 水文学から見た地球の俯瞰……谷口真人
 
50年前には/75年前には
次号予告

表紙デザイン=佐藤篤司 本文イラスト=山下正人 
 

◇巻頭エッセイ◇

沖縄島辺野古・大浦湾の危機から
安部真理子・大久保奈弥
 (あべまりこ 日本自然保護協会 おおくぼ なみ 東京経済大学)
 
 沖縄島の辺野古・大浦湾は,国内外で大切さが認められている非常に特徴的な場所です(たとえば19学会合同の要望書(2014年11月,本誌2015年2月号掲載)など)。まさにそこで米軍基地建設のための工事が行われています。護岸延伸により埋め立て予定海域の一部が閉じられようとしており,8月17日には土砂が投入されようとしています。この場所には,沖縄島周辺で最大規模の海草藻場があります。4頭の生息が知られるジュゴンにとって,最後の砦となる場所です。さまざまな種類や形のサンゴ群集,海草藻場,マングローブ,干潟,泥地,砂場などが一つのセットを作り上げており,これだけの規模のサンゴ礁生態系は世界的にもなかなかみることはできません。その場所に護岸を作っているのです。
 
 国際サンゴ礁年である今年,愛知ターゲット(生物多様性条約のポスト2010年目標(2011-2020年))の目標10(「2015年までに,気候変動又は海洋酸性化により影響を受けるサンゴ礁その他の脆弱な生態系について,その生態系を悪化させる複合的な人為的圧力が最小化され,その健全性と機能が維持される。」)を事実上無視してきたうえに,さらに希少なサンゴ群集を破壊しようとしているのです。
 
 防衛省沖縄防衛局は,埋め立て予定海域にあるサンゴを移植することを,環境保全措置としてきました。しかしそもそも,サンゴ移植によりサンゴ礁が復活することはないため,移植は環境保全措置とはなりえません。サンゴ移植が盛んに宣伝されているため,一般に誤解が広がっている懸念がありますが,これまでのサンゴ移植の例でみても,3年後の生残率は30%以下,場所によっては10%以下であり,多くは死んでしまうのです。この点は,環境省や沖縄県,根拠なく移植に期待をもたせる発言をしてきた研究者に,反省が求められます。埋め立てを急ぐ理由には何があるのでしょうか。このままでは,日本は国際社会に背を向けた,政治・環境面の後進国といわざるをえない状況にあります。
 
 沖縄防衛局が2009年にまとめた環境影響評価準備書の不備はかねて指摘されていましたが,最近,2010年に米国防総省内で,その準備書ではジュゴンの個体群の把握に必要な情報が掲載されておらず,ほとんど価値がない,と否定されていたことがわかっています。
 
 さらに驚くべきことに,防衛省は自ら提示していた環境保全図書におけるサンゴ移植の約束さえ,一方的に反故にしようとしています。環境保全図書に書かれた日本語は,工事前の移植を約束するものでした。工事をするならば,少しでもサンゴが生残しやすいかたちで移植することは当然です。ところがその日本語解釈を破壊して,工事前に必要なのは専門家等の指導・助言までだと述べるようになっています。
 
 防衛局に設置された環境等監視委員会は実質的に環境保全の役には立っておらず,防衛局は沖縄県からの当然の指摘・指導も聞きません。仲井眞知事時の公水面埋め立て承認には,環境への配慮の留意事項がつけられており,環境等監視委員会はそのために設置されています。それが機能していない以上,承認自体を撤回すべき状況にあるのではないでしょうか。
 
 本来的には,ジュゴンやサンゴが生きられる環境を残すことが大切です。日本は海に囲まれた国であるにもかかわらず,海の大切さが忘れられているようです。沖縄戦を生き抜いた人は,サンゴ礁が残っていれば食べ物をとることができるけれども,基地にしてしまうと,戦争や困難なときにやっていけなくなる,と語ります。これは大いなる知恵ではないでしょうか。
 
 
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