『図書』2025年7月号 目次 【巻頭エッセイ】横山泰子「肝試しで胆力アップ!」
怖じる心を覗く……堤邦彦
「肝試し」から心霊スポットまで……飯倉義之
ネットロア時代の怪談……伊藤龍平
歌集『ゆふすげ』の魅力……俵万智
見守る・見守られる……最相葉月
彫刻の時間……笠間直穂子
氾濫する世界を渡る……須賀しのぶ
混沌の中から創るための絵……小山周子
円本の時代に/かのレクラム文庫に……山本貴光
児童書カルチャーを盛り上げるDJ……大和田佳世
『カラマーゾフの兄弟』は家族人類学にとって宝の洞窟だ(2)……鹿島茂
七月はお暑いのがお好き……柳家三三
七月、魚介を食して夏を乗り切れ……円満字二郎
トラックはただまっすぐ進む……中村佑子
こぼればなし
七月の新刊案内
[表紙に寄せて]わたしの窓/向坂くじら
平安時代の歴史物語『大鏡』に、肝試しの話が載っています。
花山院の御時、5月下旬の激しい雨が不気味に降る晩。人々が怖い話などしていると、帝が「大勢の人がいてさえ不気味な感じがする。まして離れた所などに、一人で行けるか」とおたずねになりました。皆しりごみするのに、藤原道長公だけがお引き受けになりました。道長公はみごと目的地に達し、証拠物件とともにお帰りになりました。
これは道長の剛胆さを示すエピソードで、「将来偉くなる人は、若いうちから御心魂が強く、神仏の加護も厚いようだ」と述べられています。
時は流れて令和の世、人々は誰に命令されたわけでもないのに怪奇スポットに行き、ネット怪談を育んでおります。遊園地の御化け屋敷に大勢の人が赴いて平和な悲鳴をあげる現代、「怪異の愉しみ」は完全に民のものと化しました。不透明感漂う今こそ、怪異に親しみながら胆力アップを目指しましょう。かつて肝試しは男性が独占していましたが、今や女性の参加も歓迎されます。善哉。
(よこやま やすこ・日本文学)
〇 「戦後80年 その基点を確かめる」。小社ではこのスタンスのもと、戦争について、戦後の基点に立ち返りながら広く読者の皆様とともに考えるための新刊・復刊等の取り組みを進めています。
〇 7月から隔月で刊行予定の新刊『百武三郎日記──侍従長が見た昭和天皇と戦争』(全3巻)。2014年9月に宮内庁が公表した「昭和天皇実録」に引用されて世の知るところとなり、2021年に公開された百武(侍従長在任は1936年11月―1944年8月)の日記を翻刻し、関係資料の一部と合わせ、詳細な解説を付して公刊するものです(編集・古川隆久、茶谷誠一/協力・NHK)。
〇 7月の新書では、『日本軍慰安婦』(吉見義明)と『南京事件 新版』(笠原十九司)を刊行いたします。吉見さんの『従軍慰安婦』刊行から30年、笠原さんの『南京事件』旧版から28年。両著とも、約30年間に進展をみた研究と、その後明らかになった資料等に基づき、制度あるいは事件の全体像と実体を丁寧に描き出す決定版となります。
〇 30年前といえば、戦後50年の画期にあたる1995年。同年の『図書』を見てみますと、7月号で「特集丸山眞男集」を組んでいます。これは同年9月から刊行が始まった『丸山眞男集』(全16巻、別巻1)の予約募集開始に際した特集で、翌年の8月15日に亡くなることになる丸山自身の発言も収められています。
〇 鼎談「夜店と本店と──丸山眞男氏に聞く」がそれですが、同号の「こぼればなし」には、このときの収録の内幕が次のように記してありました。「この特集のために、闘病中の丸山眞男氏にご無理をお願いして、一夕、石川眞澄・杉山光信両氏を聞き手に大いに語っていただきました。オフレコになってからいよいよ話がはずんで、丸山氏の健康を配慮して申し合せた時間をはるかにこえてしまい、編集部ははらはらのしどおしでした」。
〇 同席した編集者にとっては冷や汗ものの数時間でもあったらしい、座談の名手、最晩年のやりとり。『丸山眞男座談』最終巻の第9巻で読むことができます。
〇 何件か受賞のご報告を。令和7年度児童福祉文化賞推薦作品(出版物部門)に『モノクロの街の夜明けに』(ルータ・セペティス作、野沢佳織訳)が選ばれました。垂水千恵さんの『台湾文学というポリフォニー──往還する日台の想像力』が日本台湾学会第2回学術賞を受賞。また、『関孝和全集』全3巻(上野健爾、小川束、小林龍彦、佐藤賢一編)が、第19回日本科学史学会特別賞と2024年度日本数学史学会桑原賞を受けました。
〇 新連載はリレーエッセイ「イメージボードでよむ宮﨑駿の世界」です。年3回の掲載となります。どうぞご期待ください。