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『科学』11月号 【特集】分かち合う心の進化

◇目次◇

【特集】 分かちあう心の進化─比較認知科学から見た人間
人間を知る:霊長類学からワイルドライフサイエンスへ……松沢哲郎
野生の認知科学をめざして……友永雅己
先端テクノロジーでチンパンジーの心に迫る……平田 聡
チンパンジー・ボノボからみる戦争と協力の進化……山本真也
大型類人猿における物にかかわる知性の発達……林 美里

[コラム]
映画監督,模型職人,大工に加えて研究者……狩野文浩
スローロリスから見た世界……山梨裕美
樹の上で進化した味覚――北半球の霊長類,南半球のコアラ……早川卓志
馬と人間……リングホーファー萌奈美
他者をおもいやるこころの進化……足立幾磨,レナータ・メンドンサ,松沢哲郎
顔の温度で調べるチンパンジーの感情……佐藤侑太郎,狩野文浩,平田 聡
社会性と音楽の進化……服部裕子
チンパンジーから見た質感の世界……伊村知子
インドネシアのワウワウテナガザルをたずねて……打越万喜子
森を再生する試みからみた人間とチンパンジー……森村成樹

巻頭エッセイ 
北海道胆振東部地震と石狩低地東縁断層帯の複雑な関係……鈴木康弘


原子力発電所敷地内の断層活動時期に関する問題
――原子力規制委員会による適正な審査のために(2)……渡辺満久・小野有五

[連載]
幻獣遊学〈11〉霊魂を天界に運んでくれる麒麟……大村次郷
これは「復興」ですか?〈20〉「隠された」アート……豊田直巳
3.11以後の科学リテラシー〈71〉……牧野淳一郎
手紙がひらく物理学史〈2〉アインシュタイン,桑木彧雄の訪問を受ける……有賀暢迪
ちびっこチンパンジーから広がる世界〈203〉ヒトとチンパンジーの脳の違いを発見……郷 康広
続・腸内細菌に聞け!――メタボと老化を腸から考える〈5〉認知症は腸から始まるか?……小澤祥司
科学技術・イノベーション政策のために〈11〉科学的根拠にもとづく政策……小林信一

[科学通信]
〈リレーエッセイ〉地球を俯瞰する自然地理学 マングローブ生態系からみた地球温暖化……藤本 潔
甲状腺がんデータの分析結果――2018年9月5日第32回福島県「県民健康調査」検討委員会発表より……津田敏秀
〈コラム〉東京電力原発事故の情報公開 東電は公表する情報をエネ庁に忖度しているのか……木野龍逸

(表紙デザイン=佐藤篤司 本文イラスト=山下正人)
 

◇巻頭エッセイ◇

北海道胆振東部地震と石狩低地東縁断層帯の複雑な関係北海道胆振東部地震と石狩低地東縁断層帯の複雑な関係
鈴木康弘(すずき やすひろ 名古屋大学減災連携研究センター教授)

 平成30年北海道胆振東部地震は異例ずくめであり,地震現象に関して知識の限界があることを思い知った.震源の深さは37km,地震の規模はM6.7(いずれも暫定値)とされた.熊本地震M7.3に比べるとエネルギーでは8分の1程度で,しかも震源は約3倍深いにもかかわらず,厚真町では震度7に達した.なぜこのように地表が強く揺れたのか?揺れが増幅された原因について今後議論されることになるが,それ以前に,地震そのものについても疑問が多い.

 震源付近に位置する活断層(石狩低地東縁断層帯)との関係も議論を要する.一般に内陸における地震発生層は通常は深度15km程度までであるが,石狩低地東縁においてはこれより深く,地震本部の長期評価では25kmまでとされていた.その意味は明確にはわかっていないが,今回はさらに深かった.そのため通常の活断層による地震ではないという見方もある.

 「地図上に示される震源の位置(震央)は石狩低地東縁断層帯のラインより東にずれるため,この地震は活断層によるものではない」という報道があったが,それは誤りである.この断層の面は東に傾いているため,震源がこの断層面上にあるとすれば,深ければ深いほど地表の断層のラインより東にずれることは自然である.しかもこの断層はかなり低角だと考えられていたため,東へ大きくずれないといけない.今回,注目されたことは,むしろあまりずれていないということであった.

 余震活動は,本震発生直後は30kmより深い場所のみと見られたが,その後,15km付近でも起こっていることがわかった.それらをつなぐと東へ高角に傾く断層面が見え,その地上延長は石狩低地東縁断層帯の活断層のラインとほぼ一致した.これは何を意味するのだろうか?こうした高角の断層活動は,石狩低地東縁断層は低角であるとする従来の考えとは合致しないため,政府の地震調査委員会でも議論された.その評価文に活断層との関係は明記されていないが,委員個人の否定的意見が反映されたためか,調査委員会は活断層とは無関係の「未知の地震」と判断したという報道が目立った(その後,9月11日,活断層との関係を否定できないとして「地震本部は見解を修正した」と報道された).

 そもそも石狩低地東縁断層帯は,数千万年以上前に千島弧と東北日本弧が衝突して生じた大規模な衝上断層群の一部であると考えられている.そのため他の活断層と比べて,はるかに複雑な地下構造を有している可能性が高い.その前提に立てば,今回の地震は,低角モデルには合わないために石狩低地東縁断層帯「が」活動して起きたものと断定することは難しいものの,断層構造の複雑性も考慮して,石狩低地東縁断層帯「で」起きたものと理解することが,少なくとも現時点では適切であろう.

 被害は局地的に激甚で,41名(厚真町で36名;消防庁10月5日時点)もの方がお亡くなりになった.とくに強く揺れた範囲は,地震本部が公開していた石狩低地東縁断層帯による予測震度の図に示されていた.当該活断層(石狩低地東縁断層帯の南部)が本格的に活動するとM7.7が予測されている.こうした事実は,活断層帯「で」起きた地震だと位置づけることにより,防災上,重い意味をもってくる.

  

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