「広辞苑のお仕事〜その魅力と舞台裏〜」@紀伊國屋書店新宿本店3F アカデミックラウンジ
5/23(金)紀伊國屋書店新宿本店で「広辞苑」初版刊行から70年を記念するトークイベントを行いました。当日は開場20分前から続々とお客様がお越しになり、早々にご用意したお席がなくなって、開演前には満席、立ち見が出るほどの盛況でした。70名ほどのかたがお越しくださいました。
この間、「広辞苑」は、改訂のたびに収録項目数・ページ数を増やしてきていますが、機械製本できる厚さに限界があり、「広辞苑」1冊の厚さをこれ以上増やすことができません。そのため、版が新しくなる度にさらに薄くて透けない紙を開発していただいてきました。「広辞苑」用紙は他の辞典用紙と比較して、薄く、めくりやすいよう「ぬめり感」のある紙であること、クリーム色にほんの少し赤が入る色味にしていることなど、紙の質感や色の特徴についてのお話を伺いました。特に、三浦しをんさんの辞書編集部を舞台にした小説『舟を編む』にも出てくる「ぬめり感」は、当初「広辞苑」の編集部からの要望の中で生まれた言葉であったということで、そんなことは一度も他社から要請されたことがなかった、特別なリクエストだったと楠澤さんは印象深くお話しされていました。
ちなみに、仮に今後の改訂でページ数が増えてもまだ紙を薄くすることは可能かという質問に、楠澤さんのお返事は「次の版は大丈夫でしょうが、いつか限界が来ると思う」とのことでした。ぬめり感があり、裏うつりしない紙をどこまで薄くできるのか、紙開発の現場の奮闘は続きます。
NHKのドラマ『舟を編む~私、辞書つくります~』(全10回)の地上波放送が6/17から始まるということで、話はドラマで取り上げられている語釈や原作小説の取材秘話などにも及びました。楠澤さんは、紙の開発と営業のどちらも担当されたことがあるということで、小説『舟を編む』には雑誌連載の時から取材に協力されたそうです。今回のドラマにも製紙考証で関わられていて、楠澤さんが取材時に語った苦い経験がドラマでは感動的なエピソードになっているとのこと。これ以上はネタバレになりますので、詳しくはドラマを見て、ぜひ確認してみてください。
1時間半の対談でしたが、多岐に及ぶ話であっという間に過ぎてしまったように感じられました。紙についての質問を平木が、「広辞苑」の内容についての質問は楠澤さんがと、お互いに質問して答える形で進む二人のテンポの良い掛け合いが心地よく、時折挟み込まれるネタに笑いが起こる楽しい会になりました。
■出演
楠澤 哲(くすざわ・さとし)
『広辞苑』本文用紙の開発に第五版のとき以降、第七版まで携わる。三浦しをん氏の小説『舟を編む』の執筆にあたって取材に応じ、NHKドラマ『舟を編む~私、辞書つくります~』では製紙考証を担当。
平木靖成(ひらき・やすなり)
長年辞典編集部に在籍し、『広辞苑』の編集には第五版・第六版・第七版で携わる。『舟を編む』の主人公である辞書編集部員のモデル?とも言われ、その映画化・アニメ化・ドラマ化でも協力。
*本イベントにつきましては、下記もぜひご参照ください。
◎当日のことについて触れていただいた5/26付朝日新聞掲載の天声人語
(天声人語)広辞苑刊行70年
◎王子グループ社内報にも取材いただきました。Note記事です。
広辞苑の紙はどのくらい薄いの?
◎ドラマ情報 NHKドラマ10【#舟を編む】
6/17(火)いよいよ地上波へ出航! 毎週火曜夜10時<全10話>[総合]