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『図書』4月号【試し読み】横尾忠則/松井茂記

◇目次◇

北斎「富嶽三十六景」             横尾忠則
口説きのテクニック              高橋三千綱
“鷲の巣”からアガサ・クリスティを眺めると  宮 紀子
閻魔帳の中の漱石               中島国彦
藤野先生の「ノート添削」をめぐって(上)     三宝政美
なぜカナダは大麻を合法化したのか       松井茂記
私のこと その3               加藤典洋
プリンス・オブ・ウェールズ          片山杜秀
笑髭・不知火・男はつらいよ          さだまさし
文庫の時代は終わったのか           佐伯泰英
筍三昧                    辰巳芳子
四月、乱れ咲く花たちの中から         円満字二郎
もの言う鹿                  三浦佑之
「たくさんの誤解と理解に感謝します」とヤンソンはいった。 冨原眞弓
海を越える人への眼差し            山室信一
こぼればなし
四月の新刊案内

(表紙=司修) 
(カット=佐々木ひとみ) 

 

 ◇読む人・書く人・作る人◇

北斎「富嶽三十六景」
横尾忠則

   セザンヌは自然を円筒、円錐、球で表現すべきだと主張したが、わが北斎の「富嶽三十六景」の絵を なめ るように画面の隅々まで眺めて貰いたい。やがて画面の至るところから、〇△☐の形が「私はここよ」と声を揃えて自己主張をし始めてくるのに気づく。〇△☐という記号はまるで白隠禅師の禅画を連想してしまうのだが、北斎の画中の〇△☐は禅の公案の要素も多少はあるかな? 禅の公案は参禅者に問題を提起して答えのない答えを考えさせるものであるが、北斎の〇△☐はどちらかというと西洋の騙し絵とか隠し絵的であろうか。

お前は一体何が言いたいのだと言われそうだが、僕の言いたいことは「富嶽三十六景」のほぼ全作に〇△☐が判らないように、或は判るように、こっそりと、時にはこれみよがしに大胆に配置されているということを指摘したいのである。別にこの公案じみた問題に無関心であっても、北斎の評価は変らない。でも判った方が面白い。すでにこのことに気づいている人には蛇足かも知れないが、種を明かしましょう。△は言うまでもなく全作に描かれている富士山である。次に〇。〇は人物の頭部にのっかっている丸い笠や水車や桶、時には構図を決定する巨大な〇の曲線の一辺として空間を支配する。そして☐は鳥居や屋根や壁や板などの建材物であったりする。

セザンヌや禅画のような観念的な抽象性は少々欠如しているが、北斎には遊びの精神が形象化されたものとして〇△☐がある。知的遊戯というより感覚を解放する力の発見である。
(よこお ただのり・美術家)

◇試し読み◇

なぜカナダは大麻を合法化したのか
松井茂記

二〇一八年一〇月一七日、カナダは娯楽用の大麻の入手・所持・使用を合法化した。世界ではウルグアイに続く二番目、先進諸国では初となる。大麻を吸うことはこれまでも多くの文学作品で触れられ、その危険性と違法性が取り上げられてきたし、大麻がらみの違法な犯罪集団同士の抗争や、それと絡んだ殺人事件なども題材として取り上げられてきた。昨年日本語版が刊行されたカナダの作家、マーガレット・アトウッドの『洪水の年』でも、退廃した社会の象徴として、マリファナ(大麻)が取り上げられ、登場人物の一人がマリファナの闇(違法)栽培を理由に逮捕され、殺されるエピソードが出てくる。 合法化された今、果たして今後はどうなるのであろうか。なぜカナダは大麻を合法化したのであろうか。

1 これまでの経過
 カナダでは、一九二三年以降、ずっと大麻の所持は禁止されてきた。合法化以前は一九九六年の薬物等規制法のもとで、大麻の所持が禁止されており、違反には、簡易起訴により初犯が六カ月以下の禁錮か一〇〇〇ドル以下の罰金、再犯以降は一年以下の禁錮、二〇〇〇ドル以下の罰金もしくはその双方又は正式起訴により最高七年の禁錮が科されていた。さらに、大麻の入手、譲渡、輸入及び輸出、製造などもすべて禁止されていた。
 カナダの最高裁判所は、大麻を禁止する連邦政府の権限を認め、憲法違反の主張を退けていた。大麻は有害でないので刑法で禁止できないとの主張を退けて刑法で禁止する権限を認め、さらに大麻を吸う自由の違憲的な侵害であるとの主張も退けたのである(詳しくは拙著『カナダの憲法』(岩波書店)をご覧いただきたい)。
 しかし一九六〇年代以降、大麻を使用する人の数は急増した。そして、次第に大麻合法化を求める声も高まってきた。しかも、大麻の所持は全面的に禁止されていたが、次第に医療目的での大麻使用を希望する人が増え、裁判所もこのような医療用大麻をも全面的に排除している限りで、大麻禁止は違憲だとした。その結果、医療用大麻の所持が認められ、医療用大麻の使用も増えていった。
 ところが娯楽目的で大麻を使用する人はますます増加し、一五歳以上の四二〇万人のカナダ人が過去三カ月の間に大麻を使用したことがあると答えている。人口の一四%にあたる。また、二二%の人が、過去一年の間に大麻を使用したことがあるという。カナダ人の五人に一人に当たる。そして、国民の間でも、大麻所持の合法化を支持する声が高まっていった。実際七割の国民が大麻合法化を支持していると言われる。
 こうしたなかで、警察の対応も次第に変化してきた。少量の大麻を自己所持し使用する一般市民を検挙することの優先性は低いとして、警察は次第に一般市民の取り締まりを諦めるようになった。バンクーバーでは毎年大麻合法化のための集会という名目で大規模な大麻使用パーティが開かれ、何万もの人が参加するようになったが、警察は警備に当たることはあっても、参加者を検挙することはなかった。大麻の販売は違法であるにもかかわらず、大麻の販売店が街のあちこちにでき、全く規制も取り締まりもないまま、大麻が販売されていた。そのほとんどは合法的な医療用大麻の販売を名目としていたが、別段医師による処方箋が必要なわけでもなく、事実上大麻の販売・購入は野放しであった。バンクーバー市は、業を煮やして、条例で販売店の許可基準を定めて、無許可の販売店を規制するようになった。連邦法上は全て違法な店舗なのに、市の許可があれば放任されるという状況であった。
 こうした中で、二〇一五年の選挙の際に自由党のトルドー党首は、政権を取ったら大麻を合法化すると宣言し、実際に選挙に勝利し、政権についてから、大麻自由化のための準備を進めてきた。そして政府は、大麻を合法化するための大麻法の法案を連邦議会に提出し、法案は連邦議会で可決成立し、二〇一八年一〇月一七日から施行されることとなった。そして、ついに正式に大麻合法化の日を迎えたわけである。

2 今後の大麻の製造、所持、使用
 一〇月一七日に施行された大麻法によれば、州が認めれば、一八歳以上の成人であれば、娯楽目的での大麻の所持は乾燥大麻三〇グラム又はそれに相当するものに限って合法化される。また、自宅において、一家で四株に限って、自ら消費する目的で栽培することもできる。食用の大麻製品や濃縮されたものの解禁にはさらにもう一年を待たなければならない。州は独自に許される年齢について定め、大麻を入手する方法・場所、使用の方法及び場所について定めることができる。医療用の大麻の使用・所持は、これまで通り許される。許容量を超えて所持することは依然として違法である(簡易起訴により六カ月以下の禁錮、五〇〇〇ドル以下の罰金もしくはその双方、又は正式起訴により五年未満の禁錮)。
 合法化後は、大麻の栽培及び大麻製品の製造は連邦の規制に服し、製品の安全性基準、どのような製品の製造が許されるのか、製品の外装・表示の仕方、製品のサイズや効き目、製造過程の監視などが定められ、大麻の製造・提供の過程がタネから販売用の製品に至るまで管理されることになる。
 ブリティッシュ・コロンビア州では、「大麻規制免許法」及び「大麻配布規制法」を制定し、その下で、大麻の購入・所持・使用が認められる年齢はアルコールと同様一九歳とされた。市民は、政府系の販売店ならびに許可を受けた私的な施設で大麻を購入することができる(オンラインでも購入は可能である)。ただし卸はすべて政府系の販売店が担う。許容量は連邦と同じである。使用することができる場所には、タバコの喫煙が禁止された場所や、公園や遊び場のような子供が利用する場所、学校施設内や自動車の中では許されないなどの制限がある。またアパートの所有者はそのアパート内での大麻の使用を禁止・制限できるし、コンドミニアムの管理者はその管理するコンドミニアム内での使用を禁止・制限することができる。栽培の許容量は連邦と同じであるが、公衆から見えないところで栽培しなければならず、デイケアなどでの栽培は認められず、アパートやコンドミニアム内での栽培にも所有者・管理者による禁止・制限の可能性がある。

3 なぜ大麻を合法化したのか
 では、なぜカナダは大麻を合法化したのであろうか。
 以前から、大麻の健康への影響については、タバコ(ニコチン)や酒類(アルコール)に比較すると、それほどの危険性はないという研究結果が出ていた。タバコや酒類が禁止されていないのに、大麻を禁止する合理的根拠はないという主張は、大麻解禁を求める人たちの間では広く共有されている。しかしカナダ医師会は、依然として、大麻の有害性自体を否定していない。それにもかかわらずカナダ医師会は、大麻の健康被害と依存症の問題は、刑罰による禁止によってではなく、公衆衛生上の問題として対処されるべきであると提言した。
 このように、カナダ政府は、今回の大麻合法化を、大麻の有害性を否定したから決定したのではなく、刑罰による禁止を一定の場合に留保しつつ、一般市民による大麻使用を刑罰以外の措置によって抑止し、対処しようとして決定したものと思われる。実際、政府のウェブサイトは、合法化の目的を、①未成年者からのアクセスを防ぎ、②犯罪者の利得とならないように確保し、そして③アクセスを自由化することによって、公衆の健康を保護することをあげている。
 まず、大麻の使用・所持は、とりわけ若者の間で非常に深刻な問題であった。合法化に伴い、一八歳未満の未成年者は大麻の所持使用が許されないことが明確にされ、しかも一八歳未満のものへの大麻の提供には厳罰が加えられ、また大麻関連の犯罪に若者を利用することにも厳罰が科され、さらに若者にアピールするようなパッケージや表示が禁止され、若者が見られるような形での販売促進が禁止され、その上自動販売機での販売が禁止されるなどの新たな措置が取られる。政府とすれば、刑罰によって禁止するのではなく、これらの措置の方が有効に若者を保護することができると考えているものと思われる。
 次に、大麻が違法とされていたため、これまで市民は違法な手段でしか大麻を入手できず、大麻の提供は違法な犯罪集団の重要な資金源となっていた。少なくとも大麻を合法化し、正規のルートで比較的安価で合法的に入手できるようになれば、犯罪集団から違法に入手することは減り、犯罪集団の資金源を減らすことができよう。
 さらに、大麻の販売・購入・所持・使用はこれまで違法であったため、大麻の安全性や品質についての政府の規制はなく、危険な大麻製品が出回っていても安全性基準を設定することもできなかった。今回、大麻の合法化に合わせて、流通している大麻製品の安全性について調査が行われ、様々な問題点が発見された。全面的に禁止するより、規制して品質や安全性を確保した方がより公衆の健康・安全性に寄与すると判断されたものといえる。
 また、大麻の合法化によって、多くの市民を犯罪者とせず、警察・裁判所の負担を減らすことができる。大麻の禁止が事実上有名無実化しているにもかかわらず、それでも多くの人がなお大麻所持を理由に罪に問われてきた。二〇一六年の統計によれば、薬物関係の検挙件数は減ってきているが、薬物等取締法違反の認知件数は九五四〇〇件であり、そのうち五八%(五五〇〇〇件)は大麻関係の犯罪であり、そのうち八一%は大麻所持であった。一七七三三人の人が、大麻所持を理由に起訴されているという。それだけの人が毎年罪に問われ、犯罪者となっているということである。合法化によってこれらの市民はもはや犯罪者としての烙印が押されなくなるとともに、警察・検察・裁判所の負担を著しく軽減することができる。
 その上大麻を合法化して、大麻の使用が普及すれば、より中毒性の強いアルカロイド系の鎮痛剤、オキシコドンなどの使用量と過剰摂取の可能性が減ることが示されており、もしこのようなアルカロイド系の中毒性のより強い鎮痛剤の使用が減れば、いまカナダで大きな社会問題となっているフェンタニルなどによる過剰摂取・急性中毒死を減らすことが期待できるかもしれない。

4 合法化で何がどう変わるか
 このように今回のカナダ政府による措置は、大麻解禁でも自由化でもなく、一部合法化に過ぎない。しかも、大麻合法化は、憲法の問題としてではなく、立法政策の問題として決定されたものであり、大麻の有害性を否定したものではなく、刑罰による禁止を用いた対処の限界に照らし、一定の範囲で合法化し、政府による規制を導入した方が妥当だという判断に基づくものといえる。
 これまでも大麻の禁止は事実上有名無実であったから、正式の合法化によって人々の生活が大きく変わることはないと思われる。ただ、人々は堂々と大麻を購入して所持し、使用することができるようになるだけである。と同時に、違法なブラックマーケットを排除し、大麻の製造、配布、販売に政府による規制を導入することができることになった。ただ、多くの文学作品で取り上げられてきた大麻をめぐる犯罪集団同士の抗争は、今後はヘロインやコカインなどもっと強い麻薬をめぐる抗争に変わるだけで、決してなくなりはしないであろう。
 大麻の使用を刑罰で禁止し、かなり厳格に刑罰を執行している日本でも、カナダの動向は参考になろう。
(まつい しげのり・憲法学) 
 

◇こぼればなし◇

◎ ことしの桜の開花予想をみますと、例年よりも早いものとなっているようです。本号が届くころ、すでにピークを過ぎたというところもあれば、いままさに満開、また、ようやく蕾がやわらいだというところもあることでしょう。

◎ さて。二月号の本欄でご紹介したドイツの読書事情。本邦の出版文化を考えるうえでも大いに参考になりそうです。もう少しご紹介しましょう。

◎ ドイツ図書流通連盟(BDB)は、ドイツ国内の出版社、取次、書店が加盟している業界団体です。きわめて組織率が高いのが特徴で、ドイツの出版社一八〇〇社のうちの九五パーセント、取次関連企業八〇社のすべて、主要な書店三〇〇〇店のうちの九〇パーセントが加盟しています。

◎ その連盟が二〇一六年に実施したアンケート調査によると、定期的に読書をする人口は国民の四四パーセント。以前は一年間に本を五、六冊購入していた人がまったく買わなくなったことで、六〇〇万人ほど読者が失われたことなどが明らかになりました。

◎ 本を買わなくなった理由を訊いてみると、読みたいけれども余裕がない、どんな本を読めばよいのか分からない、という回答が多かったそうです。

◎ また、三十代から五十代の男女に顕著にみられる傾向として、以前は本を読んでいたけれども、ライフスタイルの変化――仕事、家事、育児、介護などによって読書をする余裕がなくなった、という回答が多かったとのこと。

◎ その一方で、その世代の方々が、本を読むことで精神を集中できるのでまた読みたい、読書のような実りある精神活動をしたい、という強い願望を持っていることも、調査結果からわかりました。

◎ 潜在的な読者が数多くいることを確認できたことは、業界全体の自信にもつながり、出版社や書店は、本と読書にかんする情報を、これまで以上に発信していくことに取り組んでいるそうです。

◎ 図書館もまた置かれている環境が異なるようです。最大の違いは有料であること。ドイツには図書館法に該当する法律がないため、利用料金は図書館ごとに異なるそうですが、フランクフルト市立図書館の場合、年間利用料の二〇ユーロを支払って会員になります。ただし、一八歳未満は無料で、高齢者の方には優遇制度があるとか。延滞した場合には、一週間につき二・五ユーロかかります。

◎ 彼の地では、図書館は本を貸し出す機関であると同時に、積極的に読書を推進するための施設でもあります。多くの人が本を読むようになり、図書館の利用者が増えれば、そのぶん予算も増加するわけで、読書推進運動は図書館にとって重要な仕事として位置づけられています。

◎ 書籍の価格をみても、日本の一・五倍くらいで、図書館が有料であることを含めて、本はある程度は高額な商品であるという感覚が共有されているようです。

◎ 本号から、片山杜秀さんの連載が始まりました。武満徹さんをめぐるエッセイです。ご期待ください。

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