『科学』2019年7月号 【特集】豪雨・猛暑と温暖化
◆目次◆
【特集】 豪雨・猛暑と温暖化 二〇一八年災害の分析と予測
大規模大気循環からみた西日本豪雨――2018年の異常気象の連鎖と温暖化の影響……中村 尚
2018年の西日本豪雨をもたらした広域の水蒸気輸送――2017年の豪雨と比較して……坪木和久
衛星からみた2018年7月豪雨――局地豪雨との違い……高薮 縁
積乱雲からみた2018年7月の豪雨:共通性と特異性……竹見哲也
地球温暖化は豪雨や猛暑にどう影響するか……渡部雅浩
温暖化がなければ2018年の猛暑はなかった……今田由紀子
急速に温暖化する日本近海が豪雨に及ぼす影響……万田敦昌
平成30年7月豪雨の早期呼びかけについて……黒良龍太
巻頭エッセイ
防災対応のサイエンスを……林 春男
月間降下物測定720カ月が教えること(2)
――降下物に関する他の長期測定記録と外部被ばく線量の推定……青山道夫
[連載]
葬られた津波対策をたどって〈7〉……島崎邦彦
「米」遊学〈7〉遊学米料理にこれだけ時間がかかると思わなかった……大村次郷
これは「復興」ですか?〈28〉1年で「休校」の学校……豊田直巳
利他の惑星・地球[生命編]〈4〉〈死〉の起源……大橋 力
子どもの算数, なんでそうなる?〈2〉九九表……谷口 隆
3.11以後の科学リテラシー〈79〉……牧野淳一郎
ちびっこチンパンジーから広がる世界〈211〉 ドローンで迫るスナメリの世界……森村成樹・森 裕介
手紙がひらく物理学史〈10〉未完の理論物理学者・愛知敬一……有賀暢迪
[科学通信]
宮崎早野論文批判補遺(2)……黒川眞一・谷本 溶
〈リレーエッセイ〉地球を俯瞰する自然地理学 気候の変わり目と日本の氷河……福井幸太郎
今月の表紙
次号予告
---------
表紙=盛田亜耶 「生命の連鎖」2016年 130.9×163.0cm 切り絵
photo by Tomonori OZAWA, courtesy of gallery ART UNLIMITED
表紙デザイン=佐藤篤司 本文イラスト=山下正人 ときえだ ただし 連載「利他の惑星・地球」タイトル・デザイン=木下勝弘
大規模大気循環からみた西日本豪雨――2018年の異常気象の連鎖と温暖化の影響……中村 尚
2018年の西日本豪雨をもたらした広域の水蒸気輸送――2017年の豪雨と比較して……坪木和久
衛星からみた2018年7月豪雨――局地豪雨との違い……高薮 縁
積乱雲からみた2018年7月の豪雨:共通性と特異性……竹見哲也
地球温暖化は豪雨や猛暑にどう影響するか……渡部雅浩
温暖化がなければ2018年の猛暑はなかった……今田由紀子
急速に温暖化する日本近海が豪雨に及ぼす影響……万田敦昌
平成30年7月豪雨の早期呼びかけについて……黒良龍太
巻頭エッセイ
防災対応のサイエンスを……林 春男
月間降下物測定720カ月が教えること(2)
――降下物に関する他の長期測定記録と外部被ばく線量の推定……青山道夫
[連載]
葬られた津波対策をたどって〈7〉……島崎邦彦
「米」遊学〈7〉遊学米料理にこれだけ時間がかかると思わなかった……大村次郷
これは「復興」ですか?〈28〉1年で「休校」の学校……豊田直巳
利他の惑星・地球[生命編]〈4〉〈死〉の起源……大橋 力
子どもの算数, なんでそうなる?〈2〉九九表……谷口 隆
3.11以後の科学リテラシー〈79〉……牧野淳一郎
ちびっこチンパンジーから広がる世界〈211〉 ドローンで迫るスナメリの世界……森村成樹・森 裕介
手紙がひらく物理学史〈10〉未完の理論物理学者・愛知敬一……有賀暢迪
[科学通信]
宮崎早野論文批判補遺(2)……黒川眞一・谷本 溶
〈リレーエッセイ〉地球を俯瞰する自然地理学 気候の変わり目と日本の氷河……福井幸太郎
今月の表紙
次号予告
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表紙=盛田亜耶 「生命の連鎖」2016年 130.9×163.0cm 切り絵
photo by Tomonori OZAWA, courtesy of gallery ART UNLIMITED
表紙デザイン=佐藤篤司 本文イラスト=山下正人 ときえだ ただし 連載「利他の惑星・地球」タイトル・デザイン=木下勝弘
◆巻頭エッセイ◆
防災対応のサイエンスを
林 春男(はやし はるお 防災科学技術研究所理事長)
2018年7月に発生した西日本豪雨は,不気味な災害だった.21世紀前半に発生が確実視されている南海トラフ地震を予期させた.被害は1府10県におよび,110の市町村に災害救助法が適用された.こうした広域災害に効果的に対応するには,被害の全体像を把握して,なけなしの資源を,優先順位を付けて投入していく,これまでの日本の災害対応にない新たな仕組みを考えるきっかけとすべき災害だった.
今回の災害対応は,あちこちでたくさんのヒーローを生んだに過ぎなかった.初めて体験する大災害に対して,それぞれが工夫し対応策を練ってきた.しかも上手に乗り切ったという自負からか武勇伝があちこちで生まれている.しかしこれは賽の河原である.個人の武勇伝が検証されず,体系化されないために,組織や地域の教訓として継承されない.そのため次の災害ではまた同じような武勇伝が生まれるだけである.その背景に災害対応をサイエンスの対象として扱うという視点の欠如がある.
日本にはサイエンス=自然科学と考える傾向がある.しかしサイエンスは「問題を捉え,回答を見つける方法」である.「仮説」があり,「実証的な方法」を活用して,「合理的な結論」を引き出すプロセスを,誰もが納得する方法で行う活動である.1979年にUCLAの大学院に留学した際,「方法論」としてのサイエンスを痛感した.米国は移民の国であり,世界中から人が集まり,文化,考え方,好みもばらばら,多様である.そうした状況の中で人々が平和に暮らしていくためには,最低限の「社会常識」が必要となる.それを,短時間で合理的に確立できる方法が科学なのである.そこに米国において実証的な社会科学が顕著に発達してきた理由がある.一方,日本は2000年にも及ぶ長い年月非常に同質性の高い社会を維持してきたため,科学的に社会常識を作る手法を必要としてこなかった.
明治時代以降,当時個別科学化が完成した科学技術を輸入することで,富国強兵をスローガンに日本は工業化を推進してきた.その流れは戦後も続き,民生分野で欧米に追いつけ追い越せと,自然科学や工学に注力してきた.一方,同時に輸入された人文学・社会科学では欧米の学者の研究成果を学習したり紹介したりする訓詁解釈学が主な研究スタイルとなり,合理的な常識を作る方法論としては機能していない.
西欧に追いつき,追い越すという国家目標を達成した瞬間から,日本では今後の自らのあり方を模索する時代が始まり,「失われた20年」ともいわれている.その中で,科学技術のあり方も見直されるべきである.科学の対象を限定するのではなく,自らが立てた問いにもとづく「仮説」を,「実証的な方法」を活用して,誰もが納得するような「合理的な結論」を引き出すプロセスとして科学技術を位置づける必要がある.その一環として災害対応のサイエンスも求められている.