『科学』2020年11月号【特集】原発事故:〈伝承〉の前に検証を
◇目次◇
◇巻頭エッセイ◇
ドイツの脱原発と高レベル放射性廃棄物処分場の場所の探索
ミランダ・シュラーズ (Miranda A. Schreurs ミュンヘン工科大学気候環境政策教授)
福島原発事故は,ドイツにおける段階的に原子力発電をやめる決定に貢献した重要な要因でした。福島原発事故の時,ドイツには17基の運転可能な原子炉がありました。現在,6基が稼働を続けており,最終的なシャットダウンは2022年末に予定されています。
原子力への依存をやめるという決定により,原子力施設から発生する高レベル放射性廃棄物を処分するのに適した場所を見つける努力が強まっています。過去には,中央ドイツの地域であるゴアレーベンが適切な場所として選定されていましたが,この決定は地元の人々や反核コミュニティによって激しく争われました。
ゴアレーベンに保管場所を設立しようとする政府の努力に対して,何十年にもわたって激しい抗議がありました。深い地層保管場所としてのゴアレーベンの適合性は,ゴアレーベンの活動家から異議を唱えられました。彼らは,意思決定プロセスが不透明でトップダウンである性質を批判し,ゴアレーベンが適切な場所であるのかにも焦点を当てました。
ドイツ政府は,2022年までに原子力エネルギーを段階的に廃止することを決定し,地層保管場所に適した場所の探索を新たに開始することも決定しました。
このプロセスは,2017年に改訂された2013年の高レベル放射性廃棄物最終処分施設建設地の探査及び選定に関する法律(Gesetz zur Suche und Auswahl eines Standortes für ein Endlager für hochradioaktive Abf älle)によって導かれています。この法律により,新しい制度的構造が作られました。核処分の安全のための連邦行政庁(Bundesamt für die Sicherheit der nuklearen Entsorgung,連邦放射性廃棄物処分安全庁)が設立されました。原子力施設の規制による監視とその廃止措置,および保管場所の探索に関連する広報と市民参加の両方に責任があります。
最終保管のための連邦会社(Bundesgesellschaft für Endlagerung,連邦放射性廃棄物機関)は,最終保管場所を選定し,保管場所の開発を担います。市民および専門家の委員会(Nationale Begleitgremium,文字通り,このプロセスに付随する全国的委員会)は,場所を選定するプロセスが科学にもとづいており,透明性があり,参加型であることを保証する責任があります。
2020年9月28日,連邦放射性廃棄物機関が,さらなる検討のために地域を選定する中間報告(Zwischenbericht Teilgebiete)を発表したとき,サイト選定プロセスを進める上で重要な一歩が踏み出されました。この報告書では,ドイツ全土の46%がさらなる検討から除外されています。これらの地域は,一連の除外基準(たとえば,火山活動の兆候,地震活動,活断層,年代の若い地下水の存在,垂直方向の大きな動き),一連の最小要件(透過性(10-10 m/s未満)),大きさ(最小100 m)と深さ(地表から少なくとも300 m),および一連のバランスをとる基準にもとづいて除外されました。
この報告書での大きな驚きは,ゴアレーベンが連邦放射性廃棄物機関によって,深い地層保管には適さないと判断されたことです。ドイツの54%の地域はまだ検討中となっており,サイト選定プロセスの次の段階に入りますが,これらの地域の中には,塩,粘土,花崗岩(結晶)のある地域が含まれています。来年の6月まで,一般の人々が報告書とこれまでのプロセスについてコメントする機会が与えられます。これは,来年2月,4月,6月に開催される3回の市民および専門家の委員会で行われます。選定プロセスの次の段階では,これらの地域の適合性は,地表での適合性の観点から評価されます。その後,適切な場所のさらなる絞り込みが行われ,それらの場所の地下調査が開始されます。