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『科学』2020年12月号【特集】原爆から核兵器禁止条約へ

◇目次◇

核兵器禁止条約への道のりと人類社会の展望――私的体験とともに……沢田昭二
原爆投下から75年に想う……永宮正治

巻頭エッセイ 
6人を任命しなければ解決しない……小沼通二 

市民社会と法学術会議問題の考え方……大浜啓吉

《新型コロナウイルス感染症》
3.11以後の科学リテラシー……牧野淳一郎
欧米で感染者が急増するなか進むワクチン開発:新型コロナウイルス感染症〈その9〉……小澤祥司

マヤ地域で最古にして最大の公共建造物の発見……猪俣 健
欧州の市民が議論した「新型コロナと気候変動」……三上直之
〈コラム〉「東京電力柏崎刈羽原発再稼働問題」ウォッチ
両論併記にみる福島第一原発事故の「検証の限界」……田中三彦
リニア中央新幹線は南海トラフ巨大地震と活断層地震で損壊する……石橋克彦

[連載]
「喫茶」遊学〈12〉シルクロードの三宝茶:河西回廊……大村次郷
これは「復興」ですか?〈45〉 ホープツーリズム……豊田直巳
利他の惑星・地球[文明編]〈21〉文明は〔〈死〉と〈共生〉〕によって創り育てられた……大橋 力
広辞苑を3倍楽しむ〈112〉生還……杉浦真治
福島事故から満10年を迎えるにあたって〈4〉テロ攻撃:原子炉にとっての最大最悪の脅威……佐藤 暁
学術出版の来た道〈7〉学術誌ランキングの誕生……有田正規

[科学通信]
〈リレーエッセイ〉海辺の自然を見つめる
辺野古・大浦湾――かけがえのない内湾サンゴ礁生態系……加藤 真
〈リレーエッセイ〉地球を俯瞰する自然地理学
合成開口レーダーで地すべり性地表変動をモニタリングする……佐藤 浩
〈コラム〉東京電力原発事故の情報公開
汚染水放出の前提に対する疑問……木野龍逸

今月の表紙写真
次号予告
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表紙=「瓶ヶ森の霧氷の夜明け」(愛媛県西条市・高知県いの町県境)。宮武健仁撮影
表紙デザイン=佐藤篤司 本文イラスト=山下正人 連載「利他の惑星・地球」タイトル・デザイン=木下勝弘
 
 
◇巻頭エッセイ◇
 
6人を任命しなければ解決しない
小沼通二(こぬま みちじ 慶應義塾大学名誉教授、元日本学術会議原子核特別委員会委員長)

 菅義偉首相は,2020年9月28日に日本学術会議(以下学術会議と略)会員候補者105人の中から99人を任命し,6人の任命を拒否した。
現在の制度では,210人の会員は任期6年で再任なし,3年ごとに半数が改選される。10月1日から欠員6人のまま総会が開かれ,3年間の第25期に入った。この日に任命拒否が明らかにされ,首相が「理由は答えられない」といい続けたので,一挙に広い社会の注目を集めた。学術会議では,翌日の総会で決議して,理由の説明と6人の任命を求める要望書を首相あてに提出した。6人の分野は,哲学(宗教学)1人,歴史学1人,法学3人,政治学1人であり,男性5人,女性1人,国立大学3人,私立大学3人だった。

 首相は「105人のリストは見ていない」といいながら,「総合的,俯瞰的な活動を確保する観点から判断した」と繰り返し,「多様性が大事」ともいい,「いわゆる旧帝国大学といわれる七つの国立大学に所属する会員」が多く,ほかが少ないと述べている。首相自身の発言は次々に変わり,相互に矛盾し,拒否との言行不一致が甚だしい。真実が別にあることは明白なのに,任命しないという意志だけを力説し続けている。11月7日になって,政府方針への反対運動を先導する事態を懸念したためだと複数の政府関係者が明らかにしたと報じられている。

 これでは政府批判は許さないという第2次安倍晋三内閣発足以来の,日本国憲法を無視し,法律に違反して,強行を繰り返して,忘却を待つという劣化政治が菅内閣に継承されていることが明白だ。今後も異議を認めない政治が行われるという民主主義破壊への危惧から,広く社会からの注目を集め,止むところがない政府批判が続いているのである。今回の人事介入のようなことがまかり通れば,学問の自由だけではなく,思想・良心の自由や表現の自由も脅かされる。どんな命令でも,理由は聞かず黙って従えというのであれば,社会は萎縮し,多様性は失われ,全体主義国家に向かいかねないので,けっして容認できるものではない。

 振り返ってみると,私自身,学術会議とは1957〜62年と69〜97年,2016年から現在までいろいろな形でつながりがあった。手弁当の活動もかなり多かった。1971年には特別委員会委員長として会長と共に国会に政府説明員として出席し,「独立して」学術会議の見解を説明した。学術会議事務局の人手不足・予算不足は常に深刻な問題だったことを見てきた。

 現在の自民党と政府の学術会議に対する動きは,1983年の日本学術会議法の改正前の自民党と総理府総務長官の動き,また中央省庁改革の一環として行われた2004年の改革に向けての,総合科学技術会議の動きとよく似ている。いずれのときにも政府側の意向で会員選出方法が変更された。これらの実情を理解しない外からの改革のときに,残すべき伝統が押し流されてしまったと思っている。

 学術会議の弱体化は学術の国際協力・交流にも支障をもたらす。政府が,学界を支援するが支配しないという世界の動向に反すると,国民にも政府にもマイナスだ。

* 註 : 私たち世界平和アピール七人委員会が10月7日に発表したアピール「日本学術会議会員の任命拒否は許容できない」,学術会議が10月29日に行った記者会見の資料「日本学術会議の活動と運営について」と「記者会見資料」,創立70周年記念展示パンフレット「日本学術会議の設立と組織の変遷」は参考になるだろう。それぞれホームページに掲載されている。

 

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