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『科学』2021年5月号 【特集】防災教育を活かす「地理総合」へ

◇目次◇

[実践]
地域の災害リスクをどう教えるか――地形を踏まえてハザードマップを読む……宇根 寛・村山良之
防災とGISをつなげる……松多信尚・矢野桂司
土砂災害・水害を地形分類図で学ぶ……後藤秀昭・久保純子
災害体験・教訓を語り継ぐ……山崎友子
自然の恵みと災いをどう教えるか……須貝俊彦・鈴木康弘
高校入学時に「地理総合」で防災とGISを学んでほしい……山口 勝

[社会]
COVID-19流行と災害の地理学……中谷友樹
災害と工場との関係を「地理総合」で考える……松原 宏
「レジリエンス」概念における規範的問題……内山琴絵
災害と格差……祖田亮次

[俯瞰]
「地理総合」の方向性と防災教育の位置づけ……井田仁康
防災の担い手と自助・共助・公助……中林一樹
国土開発の目標とは――「持続可能な国土像の探究」のために……戸所 隆
地球的視点から災害を考える――自然,文化,文明の共存を求めて……池谷和信

巻頭エッセイ 
持続可能な社会づくりを担う「地理総合」と防災教育……鈴木康弘 

[これからの科学のために]
暗号技術が支える公平なデジタル社会……佐古和恵
[新型コロナウイルス感染症]
COVID-19対策の諸問題(4)都道府県による対策の評価試論……濱岡 豊
3.11以後の科学リテラシー……牧野淳一郎
新型コロナウイルスの変異とパンデミックのゆくえ:新型コロナウイルス感染症〈その14〉……小澤祥司

[連載]
絲綢之路遊学〈5〉タキシラ遺跡……大村次郷
これは「復興」ですか?〈50〉減るフレコン,増えるフレコン……豊田直巳
廃炉への道をどう選ぶのか〈3〉素通りされたスリーマイルの教訓(1)
――取り出したデブリの行方……尾松 亮

[科学通信]
〈リレーエッセイ〉海辺の自然を見つめる 臨海実験所のこと……星 元紀
放出された放射能を追いかけてわかったこと(3)――陸上に降下したものの行方……青山道夫
〈コラム〉東京電力原発事故の情報公開 内容不明/記録なしの放射性廃棄物コンテナ
――現場管理の徹底が先決だ……木野龍逸

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表紙=藤嶋咲子「mono Ⅲ Permanent Wall Intervention」2016年
表紙デザイン=佐藤篤司
 
 
◇巻頭エッセイ◇
持続可能な社会づくりを担う「地理総合」と防災教育
鈴木康弘(すずき やすひろ 名古屋大学減災連携研究センター)

 2022年度から,約半世紀ぶりに高等学校で誰もが地理(「地理総合」)を学ぶようになる。グローバル化の中で日本の個性や諸外国の特徴を知ることの重要性が叫ばれて久しい。しかしながら「地理総合」に求められるのは,単に地理的知識の充足ではなく,持続可能な社会づくりへの貢献である。中央教育審議会は「持続可能な社会づくりに必須となる地球規模の諸課題や地域課題を解決する力を育む科目」と明記している。

 その内容は,A:地図・地理情報システム,B:国際理解と国際協力,C:持続可能な地域づくりの3本柱であり,Cにおいて「防災」や「地域の展望」を学ぶ。新指導要領は,「防災意識の向上」と「よりよい社会の実現を視野に課題を主体的に解決しようとする態度の育成」を求めている。ただ単に日本で災害が多いことや,そのメカニズムといった自然地理の知識を学ばせようというわけではない。風土を見直し,災害が問いかける社会のあり方を考えさせたい。新型コロナウイルス感染症もテーマのひとつになり得る。SDGsの多くは地理教育の目標でもある。

 一方,東日本大震災から10年を経て,防災・減災も様々な限界が意識され始めている。都市化や温暖化の進行による近年の災害の激化は,かつて主流だったハード対策(いわゆる公助)に限界があることを我々に突きつけている。自ら守る努力(いわゆる自助や共助)の重要性に加え,社会全体のあり方を再考する必要に迫られる。それには考え方(パラダイム)の変換が必要であり,防災教育はそのための切り札として期待が高まっている。

 こうした状況の中で,2021年度には新指導要領にもとづく新しい教科書が各社から発表される。その内容は,教える項目(知識)自体に大きな変化はなく,組み替えに過ぎないと見えるかもしれない。しかし,生徒に何を気づかせ,どのように自発性を育むかといういわば教育のゴールが変わる。そしてそれは,持続可能な社会づくりを願う社会の強い要請に依っている。

 これまで地理学は,必ずしも現状の社会そのものを評価する視点を強めてこなかったかもしれないが,上記を実現するためには一歩踏み出す必要がある。すべてを教育現場の教員の努力に委ねるのではなく,学界や社会全体で支援する体制を充実させる必要がある。日本学術会議(地域研究委員会・地球惑星科学委員会合同地理教育分科会)は2017年と2020年の二度にわたって提言を出し,警鐘を鳴らしている。

 新たな地理教育の達成度は,「持続可能な社会づくりのあり方を議論し,行動に移せる能力を得たか」(“Think globally, act locally.”の能力の獲得度)によって量られるべきである。地理の大学入試は2025年度から,こうした思考力や実践力を問えるものにならなければならない。さらに進学後の大学教育もパラダイム変換を促すものに変わらなければならない。

 客観的事実を淡々と整理し,それを先入観やしがらみのない若者に伝える。社会の進むべき道について考えさせ,変えるべきところは変えようとする勇気を与える。それこそが「持続可能な社会」のための真の防災教育であろう。今号の特集はこうした重い宿題に対して,具体的にどのように授業を進めるべきかを考え,そのゴールを提示したい。

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