「ゲド戦記」とは
多島海(アーキペラゴ)と東西南北に位置する辺境海域からなる、アースシーの世界。
作家ル=グウィンは1968年に発表した『A Wizard of Earthsea(邦題:影との戦い)』から没後に発表された掌編「Firelight(邦題:火明かり)」まで、半世紀にわたってこのアースシーを舞台に、深い思想とすぐれた構成力にささえられたファンタジーを書きつづけました。竜たちが話す太古のことばである「真(まこと)の名」に精通する魔法使い、性や時を超越した存在である竜、生と死、光と闇の均衡――。ル=グウィンが創りだしたアースシーの世界は、数多くのファンタジー作品にも影響を与えました。
この〈ゲド戦記〉シリーズは、日本だけでも累計245万部を売り上げ、世代を超えていまも読み継がれています。

ことばは沈黙に
光は闇に
生は死の中にこそあるものなれ
飛翔せるタカの
虚空にこそ輝ける如くに「エアの創造」
シリーズ各巻紹介
■影との戦い ゲド戦記1 A Wizard of Earthsea
「ずいぶん若い魔法使いだな。」竜は言った。「そんな歳でなれるとは知らなかったぞ。」
竜の口から出てくるのはゲドのと同じ太古のことばだった。
ゴント島に生まれた少年は、大魔法使いオジオンに才能を見出され、ゲドの名を授けられる。真の魔法を学ぶためロークの学院に入ったゲドは、魔法の腕を磨く。だが、並はずれた能力におごった彼は禁じられた呪文を唱え、自らの〈影〉を呼び出してしまい、〈影〉との果てしない戦いに引き込まれる。大賢人ゲドの若き日の物語。
■こわれた腕環 ゲド戦記2 The Tombs of Atuan
日に洗われた大空のもとで、彼女は寒さと恐怖と、だが、たとえようもない歓喜に身を震わせた。「わたしは名まえをとりもどした。わたしはテナーなんだ!」
ゲドが〈影〉と戦ってから数年後、アースシーの世界では島々の間に紛争が絶えない。ゲドは平和をもたらす力をもつエレス・アクベの腕環を求めて、アースシーの東、アチュアンの墓所へおもむく。墓所を守る大巫女の少女アルハは、幼い頃より闇の者たちに仕えてきたが、ゲドと出会い、自らの世界に疑問を抱きはじめる。
■さいはての島へ ゲド戦記3 The Farthest Shore
「さあ、行かなければ。旅を続けなければ。果てしなく旅を続けて、海の水も涸れ、喜びも尽きるところに、そなたの生身の人間としての恐怖がそなたを引っぱっていくその場所に、どうあっても行き着かなくては。」
ロークの長としてアースシーを治める大賢人ゲドのもとに、北国の若き王子が知らせをもたらした。彼の国では魔法の力がおとろえ、人々は無気力になり、まるで国中が死の訪れをじっと待っているようだと。世界の異変の知らせにただならぬ気配を感じたゲドは、アレン王子を連れ、見えない敵を求めて再び旅立つ。
人は竜の目をのぞいてはいけないとテナーは言われてきていたが、いまやそんな注意はテナーにとってなきに等しいものになっていた。竜は黄色い目の奥からまっすぐテナーを見つめた。
ゲドの故郷ゴント島で一人暮らすテナーは、虐待され大やけどを負った少女テルーを保護する。そこに、魔法の力を使い果たしたかつての大賢人ゲドが、竜のカレシンの背にのせられ、瀕死の状態でたどりつく。3人の共同生活がはじまり、それぞれの過去がこだましあう中、領主の館をめぐるおぞましい陰謀に巻き込まれてゆくが……。
■ドラゴンフライ ゲド戦記5 Tales from Earthsea
おまえは何を欲しがってるの? アイリアンは自分自身にたずねた。答えはことばではなく全身全霊をつらぬく火となり、炎となって、あらわれた。いや、炎どころか、いつか彼女は燃えながら、空を飛んでいた。
レバンネン王が即位し、平和が訪れたアースシー。ウェイ島の少女アイリアンは、自分の持つ力をつきとめるため、大賢人不在のロークの学院をおとずれる。表題作「ドラゴンフライ」ほか、アースシー世界を鮮やかに映し出す5つの物語「カワウソ」「ダークローズとダイヤモンド」「地の骨」「湿原で」、作者自身による詳細な解説を収録した短編集(作者の手による地図収録)。
レバンネンは日々さまざまな仕事を明るくこなしながら、心のなかにはいつも黄泉の国の記憶が、あの国の暗さや、塵の記憶が生きつづけていたような気がした。自分は、ただ、いつもそれから目をそむけていただけなのだ。
故郷の島ゴントでハイタカとして、妻テナーと、大やけどを負った養女テハヌーと静かに余生を送るゲド。そこへまじない師ハンノキが訪れ、死者が夜な夜な呼びかけてくる奇妙な夢のはなしをする。そのころ、ふたたび竜が暴れ出し、アースシーに緊張が走る。世界を救うのは誰か。テハヌーとテナーは、レバンネン王たちと賢人の島ロークへ向かうが……。
ル=グウィンの没後に発表された「火明かり」がついに邦訳!
まどろみながら彼は、はてみ丸のことを考えていた。あの小さな舟で旅した日々を──。
シリーズ第1作『影との戦い』から50年、作家の没後に公表された〈ゲド戦記〉最後のエピソード「火明かり」。ほか、未邦訳短編「オドレンの娘」、『夜の言葉』よりエッセイ3編、講演「「ゲド戦記」を“生きなおす”」などを収めた、日本語版オリジナル編集による別冊。(解説=中島京子)
作家が共に生き、愛したゲドが、最後に見たものとは──
<目次>
序文──”The Books of Earthsea”に寄せて (井上里 訳)
オドレンの娘 (井上里 訳)
火明かり (井上里 訳)
アメリカ人はなぜ竜がこわいか (室住信子 訳)
夢は自らを語る (山田和子 訳)
子どもと影と (青木由紀子 訳)
「ゲド戦記」を“生きなおす” (清水真砂子 訳)
解説 ル=グウィンの幸福な「発見」を読む幸福な読者として (中島京子)
出典・日本語版刊行一覧