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『科学』2021年10月号 【特集】地球を俯瞰する自然地理学

◇目次◇

自然地理学の存在意義を考える――連載のまとめにあたって……鈴木康弘
さらなる追究が求められる福島原発事故起源の放射性物質の移動……恩田裕一
問題解決型科学としての地理学……近藤昭彦
大地溝と高地,砂漠を俯瞰する地理学……長谷川 均
多様な地下水たちの世界……辻村真貴
モンゴル遊牧社会と永久凍土……石川 守
ドローンで俯瞰する山崩れと草地の回復……齋 仁
湿潤変動帯の地形環境史研究……小野映介
複雑な山岳湿地の未来を予測する……佐々木夏来
山の不思議な景観が物語るもの……小山拓志
世界の山の険しさを探る……山田周二
流域からの水と土砂の流出量から地形変化速度(削剝速度)を推定する……廣瀬 孝
歴史時代の気候をグローバルに俯瞰する……平野淳平
地形をとおして人と自然の関係を俯瞰する……西城 潔
自然地理学の学習方法を歴史にみる……松永光平
大学における地理教育はどこへ向かうのか?……長谷川直子
地域の自然資源の評価とその保全……目代邦康

巻頭エッセイ 
企業の不祥事に思う……黒木登志夫 

[新型コロナウイルス感染症]
人心の制御ではなく本来の感染制御策を――新型コロナウイルス感染症対策における科学と政治(5)……尾内隆之・調 麻佐志
3.11以後の科学リテラシー〈106〉……牧野淳一郎
変異株とワクチンとパンデミックの行方:新型コロナウイルス感染症〈その19〉……小澤祥司

[連載]
絲綢之路遊学〈10〉アヌラダプーラ……大村次郷
これは「復興」ですか?〈55〉山の中の村道の改修工事……豊田直巳
入試問題から広がる物理の世界〈4〉音の強さの測定……吉田弘幸
廃炉への道をどう選ぶのか〈8〉伝えられないチェルノブイリの知恵(2)――「デブリ取り出し」を目指し続ける法整備……尾松 亮

[科学通信]
〈リレーエッセイ〉海辺の自然を見つめる
防衛省の設置した環境監視等委員会にサンゴ移植の専門家はいない……大久保奈弥・野上隆生
資料:リレーエッセイ「地球を俯瞰する自然地理学」前号までの掲載リスト

◇巻頭エッセイ◇

企業の不祥事に思う
黒木登志夫(くろき としお 東京大学名誉教授、日本学術振興会)

 私は,研究不正の事例を分析する中で,従来の研究不正分類――①ねつ造,改ざん,盗用,②疑問のある研究行為,に代わって次の三つを提案した。

 1. 真実への背信行為:ねつ造,改ざん
 2. 信頼への背信行為:盗用,非再現性,セクハラ,パワハラなど
 3.生活のリスク:製品不正,薬剤の副作用隠蔽など

 3は,研究不正の結果,社会的に大きな問題を起こした例が少なからず存在することに気づいて,1・2とは座標軸が異なるが加えた。

 2014年「STAP細胞事件」は,まだ記憶に新しい。確かに,あの事件は1の真実への背信行為であり,社会からの科学への信頼を大きく裏切った行為である。社会から糾弾されるのは当然である。しかし,よく考えてみると,STAP細胞は,われわれの生活にはほとんど影響を及ぼさなかった。同じように,メディアに取り上げられた大学教員による研究不正の多くも1や2に当たるが,実際には,社会には迷惑をかけるところまでには至っていない。

 一方,企業による不正事件は3につながるものが多く,社会に与える影響が大きい。フォルクスワーゲン社のディーゼルエンジン排ガス不正事件では,アメリカの環境保護庁(EPA)のディーゼルエンジンの排ガス規制を逃れるためのソフトを,会社ぐるみで作った。2000年代に連続したメガファーマによる不正事件は,副作用をかくし,効果を強調することにより実際に多くの犠牲者を出した。そして,会社は犠牲者に賠償金を払ったとしても,それ以上の利益を得ていた。

 日本でも国を代表するような企業の不正が続いている。三菱自動車,神戸製鋼,東洋ゴム,日産自動車,ノバルティス,最近の三菱電機など,毎年のように問題が起こっている。その製品を使っている人たちの安全が脅かされている。
企業の不正は,なかなか表に現れない。分かったときには,企業の存亡に関わるような大事件になっていることが少なくない。企業の不正を防ぐには,企業文化を変えねばならない。どうすればよいか。

 (1)まず,集団思考(集団浅慮,groupthink)からの解放が必要である。集団思考とは,みんなで知恵を出すということではなく,社会心理学の用語で,組織の中でみんなが同じ考えに陥ってしまうことをいう。問題だと思っても発言する者はなく,同じ考えに染まっていく。閉鎖された企業世界から,外に向かって問題を指摘するのは勇気がいるだろう。しかし,内部からの警告の笛(whistleblowing)が,聞こえなければ,社会に届かない。

 (2)Googleが自らの組織管理を分析した結果,一番能率が上がるのは,自由に意見が言える「精神的安心感(psychological safety)」が保証される組織だという。自由に意見を言える環境を作っていくのが大事である。パワハラは,その対極である。

 (3)どの社会にも上下関係がある。ヒエラルキーは若手のアイデアと活力を抑えることがある。フラットなプラットホームで仕事ができる環境を作ることが大切である。
このような「企業文化」を変えていくのは大変であろう。しかし,日本の企業が生き残るためには,必要なことである。

 参考:同志社大学良心学研究センター編『良心から科学を考える』岩波書店(2021)

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