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『科学』2024年6月号 特集「最新望遠鏡で探る初期宇宙」|巻頭エッセイ「南極地域観測隊──私にとっての魅力」原田尚美

◇目次◇ 
【特集】最新望遠鏡で探る初期宇宙
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が開けた初期宇宙への扉……大内正己
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡──プロジェクトの現場から……江上英一
天文学者を驚かせた宇宙初期の銀河とブラックホール……播金優一
初期宇宙の酸素・窒素・炭素観測──宇宙の元素合成史と天体進化の謎に迫る……中島王彦・磯部優樹
最遠方の原始銀河団……橋本拓也
宇宙の再電離──星形成銀河が宇宙を変貌させた決定的証拠……柏野大地

【特集2】サンプルリターン──太陽系探査ミッション

サンプルリターン探査のこれまでとこれから……橘 省吾
火星の月の砂を持ち帰る──火星衛星サンプルリターン計画MMX……藤谷 渉
OSIRIS-RExミッションと持ち帰られたベヌーの石……ハロルド コノリー ジュニア/橘 省吾〈監訳〉
サンプルリターン探査技術の現在地と未来……津田雄一
リターンサンプルキュレーションの役割とその未来……臼井寛裕
はやぶさ2はいかにして着陸を成功させたか……菊地翔太
繋ぐ はやぶさ2サンプル採取に突き進んだ人々と関わって……坂本佳奈子
[巻頭エッセイ]
南極地域観測隊──私にとっての魅力……原田尚美

太陽系外惑星の多様な世界……成田憲保

[連載]
人間の言語能力とは何か──生成文法からの問い6 真に理論的な統語論の研究はどれぐらいあるのか……ノバート・ホーンスティン/折田奈甫,藤井友比呂,小野 創〈編訳〉
〈指定討論〉真に理論的な統語論の研究は可能か?……窪田悠介
3.11以後の科学リテラシー137……牧野淳一郎
ナナメから見る物理学滑り台は大人の方が速い!?(後編)……村田次郎
日常身辺の確率的諸問題4 宝くじを買うのは愚かなのか?……原 啓介

[科学通信]
プランクトンが伝える過去の環境と生態系……仲村康秀

次号予告

表紙デザイン=佐藤篤司
 

 

◇巻頭エッセイ◇
南極地域観測隊──私にとっての魅力
原田尚美(はらだ なおみ 東京大学大気海洋研究所国際・地域連携研究センター) 
 

 今年12月5日に出発する第66次南極地域観測隊の隊長を務めることになった。南極地域観測隊の歴史は古い。1954年,国際地球観測年(1957年7月1日〜1958年12月31日)に合わせて日本も自然科学の進展に貢献するべきと,日本学術会議会長から内閣総理大臣に南極地域観測参加についての要望書が報告され,それを受けて日本の参加が閣議決定された。1956年第1次隊が出発する。1962〜1964年の中断を挟んで1965年から再開され現在に至る。準備・実施の統括は,南極地域観測統合推進本部(本部長:文部科学大臣,副本部長:文部科学事務次官)で文部科学省,総務省,外務省,財務省,厚生労働省,農林水産省,経済産業省,国土交通省,環境省,防衛省,日本学術会議が参加する。おそらく最も多くの省庁が連携する事業といえる。

 66回の南極地域観測の歴史の中で,女性が隊長を務めることは今回が初めてである。以来,多くの方から,質問・取材の要請を受ける。しかし,女性初の隊長という理由だけで,これだけ多くの質問・取材が寄せられるものだろうか? 取材を受けながら,疑問はすぐに解けた。質問は,女性が隊長を務めるにあたっての心持ちだけではなく,「南極の自然環境の現状は?」「どんな研究をしに行くのか?」「観測をしながら今どんな暮らしをしているのか?」「私が思う南極とは?」など多岐にわたっていた。南極地域観測については,その歴史の古さに加えて,タロとジロという兄弟樺太犬が観測隊不在の昭和基地周辺で生き延びた有名な話や,過去に何度か映画化されたことなどから,一般社会にとてもよく知られている。存在は知られていても,皆さんの南極地域観測についての知識は,映画化された時代からアップデートされていない。おそらく,従来の男性隊長とは異なる女性隊長のフィルターを通じて,多様な視点から南極の現状を知りたい,それを社会に伝えたいということであると理解した。これは,南極の魅力を知ってもらう大きなチャンスである。今まで情報が届けられていなかった,南極に興味がなかった人々にも伝わるかもしれない!

 私にとっての南極の魅力。最も印象深いのは無音。風がやむと音がまったくない。無音なのになんだか耳が痛くなりそうなほど。一番好きな風景は,太陽が沈み始める時期の真夜中1〜2時の空。地平線から上空に向かって青-紫-ピンク色のグラデーションが現れ,ビーナスベルトと呼ばれ息を呑む美しさである。生息する生物でよく見かけるアデリーペンギン。ペンギンがいる風景は3日で慣れる。一方で,その紡錘型の体をコーティングしている脂のせいか,猛烈に臭い体臭には慣れない。大学院博士後期課程1年で初めて南極地域観測隊に参加したとき,研究テーマが極域生物の生理・生態という交換外国人研究者の要望がアデリーペンギンの採血だった。私は,もう1人の隊員とともにスノーモービルでアデリーペンギンを探索する。見つけると氷山の斜面上に追い詰め,ペンギンが立ち上がったところを私が毛布で包んで抱き抱え,採血のために南極観測船「しらせ」に連れていく。このとき,毛布から必死に逃げようとするペンギンの体臭で倒れそうになるのだ。いまだに忘れられない臭いである。そして,第66次南極地域観測隊で私はどんな研究をするのか? 肝心の研究の説明の前に紙幅が尽きてしまった。関心のある方はぜひ,ウェブサイトhttps://sites.google.com/view/naomiharada/をご覧いただきたい。

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