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『科学』2024年7月号 特集「能登半島地震──海底・沿岸の活断層の論点」|巻頭エッセイ「「初めて」への挑戦──かぐや,SLIM,そしてLUPEX」大竹真紀子

◇目次◇ 
【特集】能登半島地震──海底・沿岸の活断層の論点
沿岸の隆起痕跡からわかる能登半島地震の履歴……宍倉正展
能登半島地震の震源モデル──モデルと被害分布の関係……纐纈一起

[活断層の認定]
2024年(令和6年)能登半島地震の想定と想定外……岡村行信・井上卓彦・佐藤智之・大上隆史・有元純
海底活断層の認定手法の転換を迫る能登半島地震……後藤秀昭

[大地の動き]
地殻変動から見た能登半島地震……鷺谷威
能登半島地下の流体の動き──群発地震との関係……中島淳一

[課題]
令和6年能登半島地震をめぐる予測の課題……鈴木康弘・渡辺満久
2024年能登半島地震:活断層の課題と広域地震活動……石橋克彦

[巻頭エッセイ]
「初めて」への挑戦──かぐや,SLIM,そしてLUPEX……大竹真紀子

モデル動物で解明する寿命とアミノ酸摂取の関係……小坂元陽奈・小幡史明
脳組織を創る──神経オルガノイド研究への誘い……坂口秀哉
がんとは何か──分子からのアプローチ4……野田亮

[連載]
3.11以後の科学リテラシー138……牧野淳一郎
日常身辺の確率的諸問題5 いつまで待てばよいのか?……原啓介
人間の言語能力とは何か──生成文法からの問い【番外編1】大規模言語モデルは人間の言語能力の解明に役立つのか?(前編)……岡野原大輔・折田奈甫

[科学通信]
研究者資料の活用をめざして──概要目録の標準フォーマット構築の試み……有賀暢迪・森本祥子・高岩義信

次号予告
表紙デザイン=佐藤篤司
 

◇巻頭エッセイ◇
「初めて」への挑戦 ── かぐや、SLIM、そしてLUPEX
大竹真紀子(おおたけ まきこ 会津大学) 
 

 今年,史上初となる月面ピンポイント着陸を成功させた小型月着陸実証機SLIMをご存じですか? 私はSLIMペイロードマネージャという,観測機器が科学成果を上げるための調整役を担当しています。

 約30年前,地球の誕生直後のことが知りたくて,古い岩石(38億年前)の分析研究をしながらも,自分の進路を悩み始めていた博士課程の終盤,偶然と幸運が重なって,月周回衛星「かぐや」の観測機器開発を担当する研究者の募集を知り,応募,そして採用していただき,博士課程を修了後に働き始めました。打ち上げまでの約10年間は,怒濤の日々でした。「かぐや」は複数の観測機器を搭載した日本で初めての本格的な月探査機でしたから,惑星探査に関して全くの素人の私でも「経験者はいないのだから,未経験者でも頑張れ」との励ましを受け,途中からは1つの観測機器の開発リーダも担当しました。今考えると,経験者がいない初めての状況だからこそ,自分達で考え,実行し,課題に直面し,それを解決するまでの全てを経験できたことは,私にとってとてつもない幸運でした。「かぐや」は2007年に無事打ち上げられ,2009年にミッションを終了しました。その頃,次は月面着陸だ!と多くの研究者が思いましたが,実際にはSLIMの月面着陸までに15年かかりました。その間,全ての活動が実を結んだわけではなく,頑張ったのに実現しなかった探査もあり,時にはがっかりもしました。そんな中,SLIMに参加できたことは幸せだったと思います。

 SLIMは工学実証が目的の探査機で,私のような理学の研究者が貢献できることは少しですが,それでも「日本で初めての月着陸を実現させるため,自分の研究者人生の数年間をかけよう」という気持ちで,多くの仲間と共に活動してきました。とは言え,初めての月着陸探査で科学目標を設定し,観測機器を開発し,着陸点を決めることは簡単ではありません。特に,探査対象に選んだ月のマントル物質が露出する(と推定される)領域の多くは狭くて傾斜が強く,本来避けたい岩石片も多いため,理学(科学目標)と工学(技術)の両方が合意できる場所を見つけるのに苦労しました。なかなか良い場所を見つけられずにいたのですが,ある夜,着陸候補地点を探して自分が開発を担当した「かぐや」の分光カメラの観測データを解析する中で,やっと有力な候補地を見つけて,誰もいない研究室で「やったー!」と叫んだこともありました。その後,SLIMはピンポイント着陸に成功したのですが,予定外の姿勢で着陸したため,搭載したマルチバンド分光カメラ(MBC)での分光観測ができるまで,準備をしながら管制室のモニタを睨んで1週間を過ごすことになりました。その間,「かぐや」の後,着陸探査の実現を目指した15年間を何度も思い出したのは言うまでもありません。そんな1週間の後,幸運にも無事に観測ができ,初めて月面の分光撮影画像を見た時の感激は,言葉では言い表せません。同時に,活動に誘って巻き込んだ仲間の笑顔を見て心底,ほっとしました。

 今はSLIMの次のプロジェクトとして,ローバ(月面車)を使って月面を移動しながら探査する月極域探査機LUPEXの実現を目指しています。月周回,月面着陸,月面移動と,私の長くても苦しくても楽しい「初めて」への挑戦は続きます。これを読む皆さんは,どんな「初めて」に挑戦しますか?

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