岩波少年文庫 ベルリン3部作
転換期には、子どもが傍にいても自分を取り繕う余裕が大人にはなく、家族や近所の人たちとの政治的対立、裏切り、語り合っても通じない心、権力への媚びへつらい、愚かな信奉などが子どもの目の前で露わになる。もちろん子どもも大活躍する余裕はない。が、彼らは大人の振る舞いを記憶し、自分の考えを少しずつ形成していく。子ども(未来)に信頼を抱くのが児童書の強さだ。
これほど大人の右往左往が正直に語られている児童書はめったにあるものではない。大人には痛いし、読むには覚悟がいる作品だが、その価値はある。
2020年2月14日刊行
1918年冬、ドイツ帝国下のベルリン。貧しいヴェディング地区のなかでもとくに貧しいものが暮らすアッカー通り37番地。4年前にはじまった戦争はまだ終わらず、貧しい労働者一家の息子、ヘレはいつもお腹を空かせていた。だが水兵の反乱をきっかけにして、とうとうベルリンでも平和と自由を求めるデモがはじまり……。
第1次世界大戦の終結と皇帝の退位、そして革命のその後の顛末を、13歳の少年ヘレの視点で描く第一作。
2020年4月16日刊行
1932年夏、ハンスは初出勤を前に緊張していた。世界恐慌のあおりを受けて、この頃は就職できるだけも幸運だ。「よりよき未来」を約束するナチは先日の選挙でも大勝し、貧しいアッカー通りにも入党するものが現れていた。やがて年が明けた1 月、ヒトラーが首相の座につくと、政敵への弾圧は一気に激しさを増し……。
ナチが政権を奪取するまでのわずか数か月間を、15歳のハンスの視点でつづった第二作。
2020年7月14日刊行
1945年冬。ベルリンの街は瓦礫だらけだ。戦争は終わりかけているが、繰り返される空襲に、人びとは疲れ切っていた。ヘレの娘、エンネはアッカー通りのアパートで、両親代わりの祖父母と暮らしている。やがてきびしい敗戦の過程を生きのびながら、エンネは次々に家族の秘密を知っていくことに……。
ナチ政権下で育った12歳の少女、エンネがこれまで教え込まれてきた「嘘」に気づいていく姿を中心に、「戦後」に変わりゆく過程での人びとの経験と、それぞれの人生の変転を描く完結編。