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【文庫解説】生誕100年──蜂飼耳 編『吉本隆明詩集』より

本年2024年、吉本隆明(1924―2012)の生誕100年を迎えます。詩と批評、文学と思想に渉る著作活動を続けた戦後を代表する思想家にして、最大の詩人の一人です。その詩業は、戦後詩の画期となっています。半世紀に及ぶ全詩を一望した上で、初めて一冊に精選した詩集が、ここに編まれました。現代詩の最前線に立ち、中枢を担う蜂飼耳先生が編纂をされました。青年は、常に「ひとつの直接性」(「ちひさな群への挨拶」)として、一人、世界と対峙しています。青年を取り巻く時代は、1940年代から50年代、60年代、70年代…2020年代、さらにその先へと変わり続けます。吉本は、時代を超えた、すべての青年の抱える思いを、繊細にして雄勁な最上の日本語による詩としました。以下は、蜂飼先生の「解説」の冒頭からです。


 思想家として論じられることが多い吉本隆明(一九二四年-二〇一二年)の詩の仕事は、これから改めて読み直される必要がある。作者が誰であれ、詩について、時代と連動する要素が顕著である場合、時の経過にともなって作品に付着していた時代の空気が剝がれ落ち、それとともに読まれなくなる、ということはある。しかし、実際に手に取って読んでみれば、隔たりと見えたものは思い込みに過ぎないと受け取り直せる場合も確かにあって、吉本隆明の詩、とくに最初の二冊の詩集はそれにあたると思う。『固有時との対話』(私家版、一九五二年)、『転位のための十篇』(私家版、一九五三年)だ。

 一九七四年生まれの私にとって、吉本の最初の詩集が出された一九五〇年代という時代については、資料や記録を通して、またそのころを生きた人たちの言葉を通して想像するしかない。革命による社会の変革が願われたり、信じられたりした五〇年代、六〇年代の社会を、どのような空気が取り巻いていたか、いま思い描くことは簡単ではない。五〇年代後半には、吉本の詩は安保闘争の激化とともに学生や労働者などに広く読まれ、海賊版まで出る状態だったという。現在では考えられないが、詩人による詩の言葉が、革命を目指した直接的な行動に影響を与え、また共鳴していた。先に述べたように、時代とのこうした密接な関係は、吉本の詩を一見、過去のものと錯覚させる要因になっているのではないかと考えられる。しかし、繰り返しになるが、吉本の詩には、いま読んでも胸に響く作品、これからも読みたい作品が確かにあると思う。そんな詩の数々と出会うことができる場になれば、という考えから、この岩波文庫の収録作品を選んだ。

 まず、この文庫の構成について簡潔に記しておこう。

 『固有時との対話』と『転位のための十篇』は全篇を収録した。続いて、初期詩篇から選んだ作品を並べた。『定本詩集』とは、『吉本隆明全著作集1 定本詩集』(勁草書房、一九六八年)を指す。五部から成るが、そのうちの第Ⅱ部は『固有時との対話』、第Ⅲ部は『転位のための十篇』なので、この文庫では、これら二冊は冒頭に配したため、残りの第Ⅰ部、第Ⅳ部、第Ⅴ部から選んだ詩を別に扱って収録した。なお、『定本詩集』より前に、『吉本隆明詩集』(今日の詩人双書3、書肆ユリイカ、一九五八年)とそれが絶版となったために著者自身の校訂によって復刻された『吉本隆明詩集』(思潮社、一九六三年)があることに触れておきたい。『定本詩集』は、これらを原型として、さらに増補するかたちで編まれている。

 『新詩集』とは、『吉本隆明新詩集』(試行叢刊第七巻、試行出版部、一九七五年)を指す。その第一版、第二版から選んだ詩を『新詩集』の作品として入れた。さらに、『新詩集』以後の詩から選択して収録し、世間に発表された詩としては最後の二篇として知られる「十七歳」(『ヤングサンデー』第四巻第一六号、一九九〇年八月二四日、小学館)と「わたしの本はすぐに終る」(『新潮』一九九三年三月号)も収めた。

 また、一九八〇年代の二冊の詩集、すなわち『記号の森の伝説歌』(角川書店、一九八六年)と『言葉からの触手』(河出書房新社、一九八九年)から抜粋し、最後に、詩に関する評論として「現代詩批評の問題」を収録した。「現代詩批評の問題」の初出は『文学』(第二四巻第一二号、一九五六年一二月、岩波書店)で、特集「批評の基準」の一篇として掲載された。後に『抒情の論理』(未來社、一九五九年)に収録された。なお、「現代詩批評の問題」が発表された一九五六年には、『文学者の戦争責任』(武井昭夫との共著、淡路書房)が刊行されている。

(続きは、本書『吉本隆明詩集』をお読みください)

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