『人は見た目!というけれど』刊行記念 トークイベント
新型コロナウイルスの感染拡大によって、トークイベントをしばらく開催できずに残念に思っていましたが、久しぶりに人数をしぼった会場でのリアル参加とオンライン参加を併用するかたちで、岩波ジュニア新書『人は見た目!と言うけれど』の刊行記念イベントを開催しました!今回は、著者でNPO法人マイフェイス・マイスタイル(MFMS)代表の外川浩子さん、そしてLGBTエンタメサイト「やる気あり美」 編集長の太田尚樹さん、ファシリテーターにMFMSアドバイザーの朴基浩さんをお迎えし、見た目問題やLGBTQの当事者たちが置かれた状況について、考えました。質問もたくさんいただき、和やかな雰囲気でユーモアをまじえつつも、当事者の方たちの思いに触れて深く考えさせられる会になりました。3人のお話を抜粋してまとめましたので、当日ご出席できなかったみなさんも、ぜひお楽しみください。* * *(2021年2月5日 神保町ブックセンター)
見た目問題(みためもんだい)とは生まれつきのアザ、事故や病気による傷跡、変形、欠損、麻痺、脱毛など、先天的または後天的に、特徴的な目立つ症状をもつ人たち(当事者)がぶつかる様々な困難をいう。「見た目に問題がある」ということではなく、「見た目を理由とする差別や偏見によって生じる問題」のことです。
見た目問題 (外部サイトへジャンプします)
LGBTQ(エルジービーティーキュー)とはLesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性別越境者)、Questioning(クエスチョニング、自身の性自認や性的指向が定まっていない、もしくは意図的に定めていない人)の頭文字をとった単語で、セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)の総称のひとつです。
朴 外川さんは見た目問題に長く関わっていますが、今回、本を書くなかで、何か変わっていったことってありますか?
外川 本当は当事者のみんなのことを傷つけていることもあった。そのことにあらためて気がつきました。長年「見た目問題」に関わってきて、鈍感になってしまっていましたね。
人と関わるということは、相手を傷つけてしまうこともある。それでも努力して関係性を築いて行くのが楽しいと再認識しました。
太田 LGBTQも「どう対応すればいい?」とよく聞かれますが、一人一人は違う人間なので、その人と対峙して、傷つけあって先に進む。その苦しさを超えた先に感動があるというのは共感します。
この本で一番共感したのは、脱毛症当事者が学校でイジメられて、お母さんに相談したら、「強くなれ」と言われて、引きこもりになってしまったこと。
僕も子供の頃、男の子の喧嘩とかようやらんし、なのに親は「お前が頑張れ」と言ってくる。でも、それって言い換えると「お前がダメだ」って言っている。
それは心の傷になるので、「強くなれ」は人を弱くする。「強くなれ」とか「やり返せ」じゃなくて、「〇〇ちゃんはこういうところがすごいね」とか、ちゃんとその人の良さを教えてあげた方が、強くなれるのでは?と思います。
外川 本当は言いたくないけど、社会に出て苦労しないようにと「気にするな」とか「強くなれ」とか言ってしまうのは、親も苦しいからなんだろうなと。
朴 マイノリティの悩みって、「フツー」を得るための旅ですよね。
太田 ゲイをカミングアウトしてない時は、僕もフツーになりたいと思ってました。大学時代、フツーの幸せっていうのは大企業に勤めてレトリーバー飼って2人子供がいる、みたいなものと思っていて。
それを目指せないというのが苦しくて。かわりに「意識高い学生の幕の内弁当!」みたいにいろいろやって、ガタガタ崩れて。大人になって、フツーなんてないと気がつきました。
外川 私も最初は、見た目問題の当事者さんは「フツーになりたい」にこだわるから苦しいんだと思って、その疑問を当事者さん達にぶつけたことがあります。今思うとすごく失礼ですね。でも、その人たちは私から離れちゃってもよかったのに、膝突き合わせて話してくれた。
「フツーになりたい」を否定するのは、おごりだと気付かされました。マジョリティは自分たちが自然に持ちあわせている「特権」に鈍感ですよね。
太田 無自覚に生きてますね。たとえば、足の速い人が「なんでみんなそんなに遅いの?」って、自分が自然にできることを人に押し付けちゃうのは、人間の持つある側面なんだけど。
初めてカミングアウトした女友達に「悔しいよね」って言われて、僕は嬉しかった。「悔しいって思っていい」って知らなかったし、自分は笑われる側に生きているという思い込みが強くありました。
朴 人が怒っているのを茶化す文化って、何なんでしょうね?「そんな怒んなくても空気読もうよ」って、なぜ怒っていることを真摯に受け止められないのか?
太田 僕ももともとはLGBTのことで「こちらから歩み寄るのがいいんだ」と思っていました。でも社会が変わるのに、ブチ切れがきっかけになったこともある。怒ることによって変わる、怒らないことによって変わる、どっちもありますね。
僕のノンケの友人で、いつも飲み会とかで「こいつゲイ」って茶化してきた奴がいて。それが数年後に何かのパーティーで再会した時、別の人に僕が自己紹介したら「ゲイなんですか、ウケますね!」と言われたんです。そしたらそのノンケの友人が、「ウケません!」ってマジギレしてて。なぜか僕がなだめる、みたいな(笑)。
怒られるっていうのも、意味のあるコミュニケーションだと思います。マイノリティには根っこに怒りが絶対ある。心の奥の消せない悲しみを知らずに「太田はセクシュアリティとかどうでもいいんでしょ」って言われたら、お前、浅いな〜って。
外川 見た目問題もLGBTも在日も、問題の壁を超えて分かり合えるのはそういうところですね。10代の当事者が、根っこに怒りは持っていてもハッピーに暮らしている大人の当事者に会うのは大事だと思う。リアルで会えれば、怒りをどう消化するか感じられる。
もしリアルで会えなくても、本で知るだけでも違う。それだけでも、違うと思います。
朴 この本も、いろんな人に出会えますね。なんとこれ、860円!(笑)
外川 本書『人は見た目!と言うけれど』を読んでどう感じたか、みなさんにぜひ教えてもらいたいです。