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『科学』2021年9月号 【特集】〈廃炉〉を定めなおす

◇目次◇
福島事故から満10年を迎えるにあたって No.6
方針の大転換が必要な「廃炉」計画――新たな「ロードマップ」のために……佐藤 暁

〈コラム〉東京電力原発事故の情報公開 No.68
ほど遠い〈信頼性〉:時間切れの処理水放出強行ではなく,外部の目と対応策を……木野龍逸

トリチウム汚染水海洋放出への対案と既設タンク耐震設計の誤り……筒井哲郎・川井康郎

廃炉への道をどう選ぶのか 第7回
伝えられないチェルノブイリの知恵(1)――廃炉完了要件と政府の長期責任を定める「廃炉法」……尾松 亮

巻頭エッセイ 
健康情報の共有と意思決定プロセスの透明化を――「東京五輪開催についての日本健康学会としての提言」をふまえて……渡辺知保  

[これからの科学のために]
「言葉の意味」と記号創発ロボティクス……谷口忠大

[新型コロナウイルス感染症]
世界を席巻するデルタ変異株との戦い:新型コロナウイルス感染症〈その18〉……小澤祥司
3.11以後の科学リテラシー〈105〉……牧野淳一郎

UNSCEAR2020年報告書で大幅に減った「経口摂取」甲状腺被曝を検証する……白石 草
原子炉圧力容器の破壊靱性評価はいまどうなっているか
 ――原子力規制委員会が採用を却下した日本電気協会の新規格JEAC4206-2016……井野博満・青野雄太

[連載]
絲綢之路遊学〈9〉 ワット・プー遺跡……大村次郷
これは「復興」ですか?〈54〉 神隠しに遭った陶芸の里……豊田直巳
利他の惑星・地球[追創編]〈26〉 〈生活の質〉から観た〔縄文〕の特異性……大橋 力

[科学通信]
〈リレーエッセイ〉地球を俯瞰する自然地理学 首都圏の地形と台地地下の古地形を見直す……遠藤邦彦
〈リレーエッセイ〉海辺の自然を見つめる 奄美の浜辺から考える,人と海とのディスタンス……山川彩子
資料 東京五輪開催についての日本健康学会としての提言
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表紙=藤嶋咲子「Propagation」2021年
表紙デザイン=佐藤篤司 連載「利他の惑星・地球」タイトル・デザイン=木下勝弘
 
◇巻頭エッセイ◇
健康情報の共有と意思決定プロセスの透明化を――「東京五輪開催についての日本健康学会としての提言」をふまえて
渡辺知保(わたなべ ちほ 長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科、日本健康学会理事長)

 6月24日に「東京五輪開催についての日本健康学会としての提言」(本号科学通信欄に資料として掲載)を学会理事会として出しました。この提言内容は学会理事会で合意されたものですが,以下は個人的な意見としてお話しします。

 提言の骨子は,「現在の」(6月半ばの時点の)状況のまま五輪開催に踏み切ることは支持できないというものです。その理由として,開催の意思決定に関与する諸機関から,五輪開催をめぐる健康情報とそれにもとづいた様々な意思決定のプロセスに関して,十分な情報共有が行われていないという,非常に大きな問題を挙げました。このような情報が広く国民の間で共有されることによって初めて,どんな方向で進むべきなのかを皆で議論し,広く合意を得た形で開催の判断はできるものだと思います。しかし実際は,そうしたプロセスは不透明なままになったのが,現状です。

 説明しないで進めれば合意も得にくいし,それを続けると間違えられなくなってしまいます。プロセスを透明にして行えば,一般の反応を反映することもできるでしょうし,100%ではなくても,ある種の合意に達することもできます。それができない方向に進んできた結果,極めて窮屈で不幸なかたちになっていると言えます。五輪に限らず,健康情報に関して同じようなことは起こり得るでしょう。一般に,国民の多くに関わるような意思決定に関しては,情報の透明性に留意して,議論が共有される方向を真剣に考えてほしい。そういう提言であると思っています。

 命・健康の問題がある一方で,社会・経済活動を止めることにも問題があります。これについても議論を透明にして皆さんどう考えていきますかと意見を求めていくのが,本来あるべき姿だったでしょう。これらには量的な側面が深く関連しているので,科学的知見をもとに予測し,その結果にもとづいてどんな意思決定をしたのかを明らかにしていく。そういうプロセスが最終的に重要ですが,現状はそうなっていない。たとえば今,いつ中止の判断をするのか,熱中症リスクについてはどう判断するのかなどに関して,議論がみえてこないのもおかしなことです。そうした議論は維持していかなければいけない。マスメディアからも常に議論の欠落への問題意識を発信していただくことが重要ではないでしょうか。

 例えば,命と様々なリスクとを比べるような議論は古くからあって,倫理以外にも様々な価値観が絡んで非常に難しい問題です。今回,そうした議論が必要だったが,十分踏み込めなかったのかもしれない。そうした場合においても,踏み込めなかったけれども最後はこういうふうに判断しました,とプロセスを明らかにすることによって,ある種の納得がうまれるかもしれないし,後にその判断に至ったプロセスを分析・評価することもできます。意思決定者側が,自己の判断に完全・完璧を求めるのではなく,きちんと議論がなされたのか,その議論がどう推移して最終的な判断にいたったのかをはっきりさせること,これらの点についての透明性が最も重要ではないかと思います。(談) 

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