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『図書』2024年11月号 目次 【巻頭エッセイ】将基面貴巳「反逆者も国家のために死ぬ」

◇目次◇
反逆者も国家のために死ぬ……将基面貴巳
私よ 母の車椅子を押せ……原田宗典
数学と本……河東泰之
清盛と港・船……髙橋昌明
『エティオピア物語』 とぐろを巻いた蛇……中務哲郎
ある図像の流転……西山克
言霊の迷宮……板東洋介
いい星の下に生まれて……遠藤泰子
海辺の美術史……德田佳世
情熱と運に導かれて……辻美舟
欲望の対象としての狂女……中村佑子
ヘビダコの顔……川端知嘉子
大英帝国のシェイクスピア……前沢浩子
親友、ペティス・ド・ラ・クロワ……西尾哲夫
三田聖坂亀山碑と『更級日記』竹芝寺伝説……金文京
こぼればなし

一一月の新刊案内

(表紙=加藤静允) 
 
 
◇読む人・書く人・作る人◇
反逆者も国家のために死ぬ
将基面貴巳
 

 現代の政治哲学者アラスデア・マッキンタイアによれば、近代国民国家には二つの側面がある。すなわち「財やサービスの官僚的な供給者」であると同時に「聖なる価値の貯蔵庫」だというのだ。公共事業のサービス・プロバイダーにすぎない反面、あたかも神社のように聖なる「ありがたい」存在でもあるからこそ、国家は国民に向かって自分の生命を捧げるよう促すことができる。だが、その二面性を合わせてみれば、まるで「電話通信会社のために死ね」と言われるようなものだ。こう述べて、マッキンタイアは「国家のために死ぬ」ことを戯画化した。

 しかし、「国家のために死ぬ」のは自己犠牲も厭わない熱烈な愛国者だけではない。サービス・プロバイダーとしての粗末な仕事ぶりを批判されても国家はあまり気にしないが、「聖なる価値の貯蔵庫」としては、その聖性が疑問視されたり脅かされたりすることを絶対に許さない。国家の神聖不可侵性を蹂躙すること、それが反逆罪である。中世末期から近代にかけての英仏の歴史は、反逆者が、首吊りや斬首だけでなく内臓抉りや四つ裂きといった残忍極まりない方法で処刑された事例で溢れている。「聖なる価値の貯蔵庫」は血に飢えた存在なのだ。

 反逆罪の歴史とは、中世末期に勢いを得た世俗権力が近代国民国家へと成長するとともに聖なる存在へと変貌した過程である。聖なるものは人を殺すことで聖性を主張する。それがともすると忘れられがちな国家の本性の一面である。

(しょうぎめん たかし・政治思想史)

 
◇こぼればなし◇

〇 九月二六日、静岡地裁が「袴田事件」再審で捜査機関による証拠の捏造を認定。袴田巖さんに無罪判決が言い渡され、一〇月九日に無罪が確定しました。一一月刊の『姉と弟 捏造の闇「袴田事件」の58年』(藤原聡著)は、この事件をめぐる決定版ノンフィクションです。

〇 半世紀以上にわたり支え続けてこられた、姉のひで子さんと弟の人生を重ね合わせながら描かれる、冤罪事件の全貌。捏造を疑わせる静岡県警内部の動きを匿名証言等から明らかにし、裁判所の合議の内側にも切り込むなど、新事実を発掘して迫ります。袴田さんが奪われた五八年。このあまりにも長すぎた年月は、たとえ、これから再審法(刑事訴訟法の再審についての定め)の改正や死刑制度など日本の刑事司法そのものの見直しに向けて歯車が動いたとしても、もう取り返すことはできません。

〇 『再審制度ってなんだ?』(今年一月刊、岩波ブックレット、村山浩昭・葛野尋之編)と、供述心理学の第一人者、浜田寿美男さんの『袴田事件の謎──取調べ録音テープが語る事実』も合わせてご一読をお勧めいたします。

〇 第一〇二代首相に石破茂さんが就任しました。対する野党第一党代表は元首相の野田佳彦さんという、中道路線の対決構図に。石破新総裁の選出後第一声の挨拶には、下野してから政権奪還まではそうだったという「自由闊達な議論ができ、公平公正、そして謙虚な自民党」に戻りたいとの宣言がありました。まずこれから実現していただきたいものです。

〇 米国ではトランプ前大統領とハリス副大統領が、第四七代大統領の座をめぐって熾烈な戦いを繰り広げてきました。日本の解散総選挙後の状況と合わせ、一国をこえた政治的な変化の歯車が回り始めるのか、そうだとしたら実際どのように回わるのか、引き続き目が離せません。

〇 そのような現在、文化や社会、ビジネスの領域に目を転じますと、大きな変化が起きていて、その一つの端的な表れが「VTuber」かもしれません。八月刊の『VTuber学』(岡本健・山野弘樹・吉川慧編著)は、このテーマを様々な切り口のもと学問の俎上に載せた、最初の本格的な書ではないでしょうか。ありがたいことに発売と同時に何度も刷を重ね、大きな反響をいただいています。

〇 VTuberとは「バーチャルYouTuber」を縮めた表現です。VR(仮想現実)のスタジオ内でアニメキャラクター的なビジュアルに扮した活動者が、ネットを通して実況動画を配信したり視聴者と交流したり。ビジネスモデルとしても急成長中で、既に多くの企業や行政機関とのコラボが組まれ、海外への事業展開も活発な状況が本書で紹介されています。また、『VTuberの哲学』(春秋社)の著者でもある山野弘樹さんほか哲学研究者の方々がVTuberを論じる「理論編」を読めるのも本書の魅力です。

〇 受賞報告を一つ。太田洋さんの『敵対的買収とアクティビスト』(岩波新書)が、第一八回M&Aフォーラム賞正賞RECOF賞を受けました。


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