原田宗典『おきざりにした悲しみは』推薦のことば
原田マハさん(作家)
世界のすべてに見捨てられても、きっと神様は見ている。
そう信じたくなる〈奇跡の物語〉です。
片山杜秀さん(評論家)
サヨナラ満塁ホームラン小説だ。藤圭子と山下清と無法松にでも譬えたくなるような子供と年寄りがトリオを組んで辛酸をなめる。下り坂だ、夕日だ、現代日本の底辺だ。けっこう深刻。しかし軽みがある。ユーモアがある。どこか温かな風俗小説の風情。でも物語は暗い夜に向かうほか無さそうな……。いや、堪えられない展開になる。ひっくり返る! 軽みや温かみは幸福を招くのだ。水戸黄門や暴れん坊将軍のような存在が登場する。上り坂になり朝日がさす。悪い奴が吹っ飛ぶ。トリップだ。祝祭だ。荒唐無稽さこそが物語の快感。芝居や映画にもできるぞ。劇作家でもある原田の面目躍如。おきざりにした悲しみが百倍返しされるのだ。
―書店員さんの声―
主人公は原田さんの化身だろうか。実は私も同い年で、身につまされながらも、主人公たちの幸せの到来を祈りながら一気に読みました。面白さ+切なさ+希望というところでしょうか。この作品を読んで、自分もこんな人間でありたいと思いながら、そんな自分を冷静に眺めて苦笑いしました。とても読みやすく、だからといって軽すぎず、ほんわかと心にしみてくる、この絶妙なブレンドは原田さんが色々あった人生の中でしか醸し出せない絶妙の味なのでしょうねえ。
(勝木書店営業本部 海東正晴さん)
*
タイトルから心をえぐられるタイプの話かもと覚悟して読み始めたのですが、いい意味で裏切られました! 人生詰んだと思っても、いつ、何が起きて、どう転ぶかわからない。希望に満ちたラストが最高です。出会えてよかったと思える一冊でした!
(幕張蔦屋書店 後藤美由紀さん)
*
吉田拓郎さんの名曲にのせて……とあったので、吉田拓郎さんの「おきざりにした悲しみは」を聴きながら読みました(読み終わる頃には小説に出てきた昭和の名曲プレイリストまで作りました!)。令和とはまた違う、昭和特有の人間味あふれる、あたたかい情景が思い浮かんできて、懐かしいようなやさしい気持ちになりました。そして、長坂誠の男気があまりに渋くてかっこよかったです……! 人生、生きていればいろんなことが起こります。けれど、諦めずに辛抱強く生きていたら、どこかで必ず良いことが起こるんだなと、自分自身の人生にも希望が持てました。素敵な物語をありがとうございます。
(大垣書店イオンモールKYOTO店 村瀬萌夏さん)
*
読後のこの温かい感情は何だろう。長坂の人生は何とも言えない出来事の連続だった。「優しさ」が長坂を救う。「優しさ」が不幸にもつきおとす。でも最後には「優しさ」に「温かさ」がつながり、前に進もうとしている長坂がいる。優しくて素敵な物語。岡山弁が出てくるところも親しみがあってすごく良かったです。
(紀伊國屋書店エブリイ津高店 高見晴子さん)
*
60代の男性と10代の姉弟。日々の生活で交わるはずのない3人が、ある出来事をきっかけに交流を重ねていく。その、お互いを大切に想い合う様子に、胸がじんわりと温まっていきました。また、福音の流水を感じる一文一文に心を洗われ、そのみずみずしさが全身に沁み渡るようでした。世代や時代がどんなに変わっても、 永遠に輝き続ける人の真心が込められた物語。そして、かけがえのない存在との出逢いが、 心に新しい光をもたらしてくれる人間ドラマ。年を重ねても、自分の心を見失わなければ、人は何度だって生まれ変われる。過去に残してきた哀しみや、苦悩に苛まれ流した涙も、生きることを諦めなければ、人生を豊かに彩る力となる。そんな、大切な人とのつながりを通して、哀しみが愛しみに変わっていく、奇跡の煌めきを感じました。本作は、私にとって、生きていく上でずっと大切にしたい、やわらかな希望の灯です。読み終えた後、全身が浄化するような、心安らぐほほえみの涙が滲みました。
(紀伊國屋書店福岡本店 宗岡敦子さん)
おきざりにした悲しみは
原田宗典
2024年11月8日発売
定価=本体2,000円+税
四六判・上製・272頁
ISBN 978-4-00-061665-2
(試し読み)
原田宗典(はらだ・むねのり)
1959年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。1984年に「おまえと暮らせない」ですばる文学賞佳作。主な著書に『スメル男』(講談社文庫)、『醜い花』(奥山民枝 絵、岩波書店、2008年)、『やや黄色い熱をおびた旅人』(岩波書店、2018年)、『乄太よ』(新潮社、2018年)、『メメント・モリ』(岩波現代文庫)、訳書にアルフレッド・テニスン『イノック・アーデン』(岩波書店、2006年)がある。