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『科学』2021年12月号 【特集】新型コロナ対策は何を目指しているのか

◇目次◇

3.11以後の科学リテラシー〈108〉……牧野淳一郎
市民と協調するコミュニケーション・モデルを――新型コロナウイルス感染症におけるリスク・コミュニケーションの問題(2)……吉川肇子
感染症対策の大原則からみる新型コロナ対応……岡田晴恵・田代眞人
PCR今昔物語……川上浩一
ブースター接種が本格化,経口薬も承認へ:新型コロナウイルス感染症〈その21〉……小澤祥司
科学はどこへ消えた? ――新型コロナウイルス感染症対策における科学と政治(6) ……尾内隆之・調 麻佐志


巻頭エッセイ 
政府主導の対策の強化とデータの共有により日常生活を取り戻す
「グリーンゾーン化」を……「日本グリーンゾーン化戦略」提案チーム

mRNAワクチンの基幹技術:核酸デリバリーと脂質ナノ粒子……神谷万里子・川上 茂
生命現象の正確性と可塑性を担う翻訳装置リボソーム……稲田利文


[連載]
絲綢之路遊学〈12〉 インド仏教聖地……大村次郷
これは「復興」ですか?〈57〉 セイタカアワダチソウの風景……豊田直巳
広辞苑を3倍楽しむさざえ〈114〉 ……福田 宏
利他の惑星・地球[追創編]〈27〉 文明として観た〈縄文〉の特異性……大橋 力
入試問題から広がる物理の世界〈5〉 電流がつくる磁場:アンペールの法則……吉田弘幸
廃炉への道をどう選ぶのか〈10〉 私たちは何をどう選ぶのか(上)―――曖昧化する廃炉と両立する復興とは……尾松 亮

[資料]国ごとの100万人あたりの累積死者数(瀬戸亮平)

今月の表紙
次号予告
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表紙=藤嶋咲子「Virtual protest #7」2021年
表紙デザイン=佐藤篤司 連載「利他の惑星・地球」タイトル・デザイン=木下勝弘 

 

◇巻頭エッセイ◇

政府主導の対策の強化とデータの共有により日常生活を取り戻す「グリーンゾーン化」を

「日本グリーンゾーン化戦略」提案チーム


 9月27日に我々は,科学的知見をふまえて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策の再起動を提案する「日本グリーンゾーン化戦略」を公表した。この戦略でいうグリーンゾーン化とは,市中感染を起こさない状況,つまり感染者数のベースラインを0にすることを指している。グリーンゾーン化が実現できれば,すべての人が感染を気にせず日常生活・経済活動を営むことができる。これは決して非現実的なことではなく,この方針を実践している国は,死者をほとんどだすことなく人々の生活を維持している。

 COVID-19は明らかに「単なるかぜ」ではない。これまでに国内では170万人超の陽性者と1万8000人超の死者をだした(世界全体では,陽性者約2億5000万人,死者500万人超。10月末時点)。確かに治療法の進展と医療現場の努力,そしてワクチンの効果により致死率は下がってきている。重症化率・致死率が低下したので,もはや感染拡大を抑制する必要はないという意見すらある。しかし,対策をやめて感染が広がれば,結果として死者数は増える可能性がある。実際にワクチン接種が先行していたイスラエルは,(今の日本のように終息を期待させるような)感染者数の大幅減少をみた後に,感染者数・死者数の再増加を経験している。ワクチン接種率が80%近いシンガポールでも共存戦略に転換した結果,感染が急拡大し死者も増加している。これらの例をみても,ワクチンの効果だけで感染拡大を抑えることはできない。当初想定していたワクチンによる集団免疫は感染力の高い株に対しては成り立たない。また,ワクチンの効果は時間と共に減衰することが明らかになってきた。このため,ワクチン接種が進んだ後でも,対策を講じなければ感染拡大と死者数増大は起こりえる。まして,ワクチンを接種できない事情のある人にとっては,感染が蔓延し続ける状況は恐怖でしかないだろう。

 現状では,ワクチンの繰り返し接種による効果,心筋炎などの望ましくない影響の長期的な予後は,ともに不確実である。さらに,この新たな感染症がどのような後遺症をのこすのか,その全貌を現段階で知ることはできない。加えて,ワクチンを回避し毒性の強い変異株が新たに現れる可能性も想定しなければならない。

 これらをふまえて,市民の健康,生活,そして経済活動を考えるならば,よい治療薬が開発されワクチンが世界的に行きわたるまでの当面の間,そもそも市中感染が生じないグリーンゾーン状態を達成・維持することが,ワーストケースに備える危機管理として合理的である。

 市民は,生活の支えや補償の十分でない中で活動・営業を控え,ワクチン接種率は急速に高まるなど,十分に協力してきた。マスク着用や手洗いは習慣として定着しただろう。グリーンゾーン化を目指すこれからの対策には,市民の自主的な取り組みばかりでなく,政策的な強化が求められる。グリーンゾーン化を達成・維持するためには,迅速に感染者を見いだし,空気感染を前提として周辺を幅広く保護・検査し,必要ならば補償しつつ行動抑制をうながすことによって,市中への感染の広がりを阻止する必要がある。また,科学的な対策には現状把握が必須であり,そのためには政府主導で安価にPCR検査を行きわたらせ,そのデータを一元管理し,市民に見える形で公開する検査体制の充実が必要である。

 国内のグリーンゾーン状態を維持していくためには確実な水際対策も不可欠である。11月8日に政府は入国者の待機期間を3日間に短縮した。これはすでに知られている科学的知見に反する対応である。人々の往来はもちろん重要である。それを可能にするのは,精度の高い検査と,十分な待期期間の設定でなければならない。今はまだ「ウィズコロナ」は時期尚早であり,「ウィズ検査」こそ求められる。

 新規陽性者数が減少しワクチンの効果が期待できる今†,感染者数の増加を許さずに日常生活を取り戻すグリーンゾーン状態を目標として,科学的知見をふまえた政府主導の対策を強化すること,その前提としてデータの集約・公開を進めることを提案する。


*―(ABC順)濱岡豊(慶應義塾大学教授),牧野淳一郎(神戸大学教授),佐野雅己(上海交通大学教授),瀬戸亮平(中国科学院大学温州研究院教授),徳田安春(筑波大学客員教授・医師)。 https://greenzoneproject2021.wordpress.com/ で会見資料・動画公開。
†―8月後半から10月末現在に至るまで,検査陽性者数は順調に減り続けた。日本の現状は,現象面では我々の提言の「II期 ウイルス徹底排除期」にあり,都道府県別にみると,「III期 グリーンゾーン維持期」に達しつつある県もある。この傾向を科学的な対策で維持し,グリーンゾーン化を進める必要がある。

 

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