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<特集>海底から地球の未来を探求する――海洋底掘削科学の新展開【『科学』2022年10月号 】

◇目次◇ 
【特集】海底から地球の未来を探求する──海洋底掘削科学の新展開
海底から地球の未来を探求する──海洋底掘削科学の新展開……道林克禎
海洋マントル掘削──マントルからわかること,マントルまでにわかること……森下知晃
震源域の物質から探る巨大地震とスロー地震の発生メカニズム……氏家恒太郎
掘削・孔内観測網による巨大地震の描像……木下正高
IODP乗船体験記……神谷奈々
海底下に広がる微生物のすみか──どこまでつづき,なぜそこにいるのか?……諸野祐樹
微化石から読み解く海洋環境──過去・現在,そして未来……黒柳あずみ
太古の気候変動はどこまでわかったか?……黒田潤一郎
海洋科学掘削の将来──Enabling Elements:成功に導く要素……江口暢久
地球科学に新しい風を吹き込んできた海洋底掘削科学……木村 学

[巻頭エッセイ]
掘削科学の未来……川幡穂高

三体核力──実験からのアプローチ……関口仁子
中性子星は三体力が際立った「巨大な原子核」か……飯田 圭・鷹野正利・田島裕之
デジタルツイン×AIが世界を変える……新熊亮一

[連載]
竹取工学物語2 ⽵の「節」がもつ⼒学的役割……佐藤太裕
数学者の思案5 日米大学の数学授業……河東泰之
これは「復興」ですか?67 消えた「まち」の避難指示解除……豊田直巳
リュウグウのささやきを聴く2 石をとる……橘 省吾
3.11以後の科学リテラシー117……牧野淳一郎

[科学通信]
桜島2022年7月噴火クライシス……井村隆介

50年前には

次号予告

 
◇巻頭エッセイ◇
掘削科学の未来
川幡穂高(かわはた ほだか 早稲田大学客員教授、東京大学名誉教授)

 掘削とは,地面の土砂や岩石を掘り取って穴を開けることである。特に,石油,天然ガス,石炭,温泉,地熱,地下水など地下にある資源を活用するため,人類はさまざまな手法を考案し,その技術を磨いてきた。その恵みを,現代の私たちは享受している。

 「地球惑星科学」は,生命が育まれる地球という星の営みを探求する学問である。その中でも掘削という手法で地下の物質を採取し,穴を使用した観測により地球内部の構造や働きを解明するのが,掘削科学である。研究対象は岩石のみならず地下水や生物など多岐にわたる。地球は海と陸にわかれるので,対象に応じて便宜上海洋掘削と陸上掘削に分類されてきた。

 海洋掘削には大型の船などが必要とされるので,陸上掘削より技術的ハードルが高い。地球の地殻を貫いてモホロビチッチ不連続面まで掘削を行おうとする「モホール計画」が,本格的な海洋科学掘削の開始とされる。これはその後,深海掘削計画(DSDP: Deep Sea Drilling Project,1966〜1983年)に引き継がれ,国際プロジェクトに進展し,2013年からは国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)が実施されている。現在,22カ国が参加している。一方,陸域では,22カ国とユネスコが参加して国際陸上科学掘削計画(ICDP: International Continental Scientific Drilling Program)が実施されている。

 これまで科学掘削が達成した成果は多岐にわたる。巨大地震や津波発生メカニズム,海底下の広大な生命圏,豊富な資源(エネルギー・鉱物)の形成,短期変動を中心とした気候変動に関する多くの画期的発見があった。これらは,日本の喫緊の課題(環境変動,資源確保,国土保全,地震・火山災害)の解決にも密接に結びついている。日本は技術立国そして海洋立国として,世界をリードしていく使命があり,掘削科学を専門とする科学者はその任務を実践する覚悟で活動してきたが,今後もこの方針を堅持していくことが世界から期待されている。

 激甚災害が繰り返し発生する日本において,地球的規模の気候や環境変動が顕在化し始めた人新世という時代に私たちは生きている。文明の持続可能な発展と災害に強い社会に資する研究は,人々の生活にとって極めて重要である。好奇心を駆り立てる地球深部の探査や地下生命圏の解明は,人類共通の知的財産となるものである。さらに今後は,掘削に直接関係する研究分野,モニタリング観測,数値モデリング解析,理論的な考察などが分野融合的に共同研究を行うことで,地球に関する統一的な概念が創出されることが期待される。

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