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『図書』2022年10月号 目次 【巻頭エッセイ】古川隆久

◇目次◇
 
ヤースナヤ・ポリャーナの瞿秋白……吉澤誠一郎
祖父のフハイカ(上)……田中友子
希有の機縁に……岡本隆司
森林浴で森も人も健康にしよう……今井通子
科学的思考法を愛でる……内田麻理香
オードリー・ウィリアムズの歌声……片岡義男
現場……谷川俊太郎
『少年の街』を読んだ日のこと……磯部涼
謎のアクトン……近藤和彦
日本らしい装訂……佐々木孝浩
物語に吹く風 朝鮮短篇小説選……斎藤真理子
こぼればなし

(表紙=杉本博司)
 
 
◇読む人・書く人・作る人◇
ある日の「拝謁記」
古川隆久
 
 私も編者の一人である『昭和天皇拝謁記』は、一九四九年二月から一九五三年一二月まで、初代宮内庁長官田島道治が書きとめた、昭和天皇と田島の対話記録である。この膨大な記録には、日本の独立回復前後の時期の天皇の考え方や、象徴天皇制がいかに形作られていったかを知る手がかりが溢れている。
 
 田島は、新渡戸稲造の薫陶を受け、孔子の研究を趣味としつつ、主に銀行業界で手堅い実績を積んできた財界人。宮中の「民主化」のため一九四八年六月に田島を宮中入りさせたのは、同じ新渡戸門下の首相芦田均であった。
 
 一九五一年六月五日、昭和天皇は田島に対し、次のような話をした。この時、昭和天皇五一歳、田島は間もなく六六歳。
 
 昭和天皇は、両親(一九二六年死去の大正天皇と、この年五月一七日死去の貞明皇后)は「どうも御仲がよくは御ありでなかつた」とし、「想像だが、〔貞明皇后が〕御影〔みえい〕にずつと御拝礼を遊ばしたのは、むしろ御反省の結果」だと「長官だから打明け」た。
 
 これに対し田島は、「事実を確めて、其上に想像するも何の為にもなりませず、何の必要もない事〔ゆえ〕〔中略〕真実を御見出しになる事をおやめ願つて、誠実に御影を生けるが如く、〔つか〕へられたと御考へになつて〔中略〕永久に差支ない事と存じます」と諫言し、昭和天皇は「うん、そうか」と応じた。
 
 二人の対話は、事務的なやりとりの域をはるかに超えていた。この二人の対話からどのような昭和天皇像、象徴天皇像が立ち現れてくるのか、ぜひご自分の目で確かめていただきたい。
 
(ふるかわ たかひさ・日本近現代史)
 
 
◇こぼればなし◇
 
〇公益社団法人全国出版協会・出版科学研究所の発表によると、今年上半期(一―六月期累計)の紙書籍と電子書籍を合算した推定販売金額は、前年比三・五%減の八三三四億円でした。紙は同七・五%減(書籍四・三%減、雑誌一一・八%減)、二桁成長が毎年続いていた電子は同八・五%増(電子コミック一〇・二%増、電子書籍〇・四%減、電子雑誌一三・二%減)
 
〇研究所の報告には、紙書籍について「コロナ特需が終息」、電子出版市場については「コロナ禍の巣ごもり需要で増加したユーザー数の伸びが落ち着き、市場は成熟期に入った」とあります(以上、『出版月報』七月号)。版元として、それをふまえた取り組みが求められています。
 
〇行動制限の緩和もあり、この夏は少し遠くまでお出かけになった方も多かったのではないでしょうか。昨年、一昨年と中止されていた大きな祭りも、各地で復活したようです。私事ながら、今年は三年ぶりに開催された八月お盆の三嶋大祭りを覗いてきました。最初に見物して以来、伝統芸能「シャギリ」の音色とリズムの虜になっているからです。
 
〇初日の夜、ハイライトである各当番町の山車の競り合いを、三嶋大社の大鳥居の真下から見守ります。四方の頭上から降り注ぐ音また音の圧倒的な迫力。各町とも個性的な山車の装飾の美しさ、楽しさ。驚くばかりのライブ感です。
 
〇「屋台」という喧嘩囃子の曲で、相手のリズムに巻き込まれたら負けとなる競り合い。緊迫したセッションが続きます。最後は「切り囃子」というごく短い曲で仕舞に。各町が互いを讃え合い、順に同じ曲を演奏するのです。戦い済んで、のえもいわれぬ静けさと哀愁は、競り合いのもう一つの魅力でしょう。
 
〇三嶋大明神とくれば源頼朝公。三嶋祭り二日目の恒例行事となっている「頼朝公旗挙げ行列」で今回、頼朝役として三島に「出陣」したのは、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の頼朝役で強い印象を残した大泉洋さんその人でした。
 
〇大泉さんといえば、今年一二月から全国公開される映画「月の満ち欠け」(廣木隆一監督、松竹配給)で、主人公の小山内役を演じられるのもたいへん楽しみです。原作は佐藤正午さんの直木賞受賞作小社刊、未読の方はぜひお手にとってくださいますよう。
 
〇昨年一年間の名エッセイを集めた『ベスト・エッセイ2022』(光村図書出版)に、小誌から原田宗典さん「親父の枕元」(二〇二一年一〇月号)と、志茂田景樹さん「父と兄の書棚が招いた変な読書」(同一一月号)が選ばれました。
 
〇本号から、近藤ようこさん「ゆうやけ七色」と、『ドードーをめぐる堂々めぐり(小社刊)が刷を重ねている川端裕人さん「絶滅をめぐる物語」の連載が始まります。どうぞご期待ください。
 
〇訂正です。先月号小欄で「台湾の少年」第三巻『戒厳令下の編集者』の刊行月を九月としていましたが、編集上の都合により一〇月中旬刊予定となりました。遅延をお詫びいたします。

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