映画『月の満ち欠け』大泉洋さんインタビュー
2022年12月2日公開の映画『月の満ち欠け』。主演の大泉洋さんがインタビューにお答えくださいました。
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編集部 初めて脚本を読んだとき、小山内堅という人物にどんな印象を持たれましたか?
大泉 事故で妻と娘を失う父親なので、最初はつらい役だなと思いました。できれば避けて通りたいほどでした(苦笑)、脚本にそれだけに終わらない、どこか前向きになれる要素があったんですね。複雑な脚本なんですが、見事にバランス良く色々な話が絡み合って成立している。小山内の家族の物語に、有村架純さん(正木瑠璃)と目黒蓮君(三角哲彦)の恋愛と「生まれ変わり」のストーリーが繋がっていく、その関わり方がとても絶妙で、脚本として面白かったです。
編集部 劇中では、小山内の28歳から55歳までの幅広い時期を演じられました。とくに意識されたことはありましたか?
大泉 28歳のほうは諦めていました(笑)。僕はもう50歳になりますからね。メイクさん、衣装さんにお任せしようと。歳をとってからは若干の老けメイクを施し、体重を落として、やつれた感じが出るようにしました。なるべく順撮りにしてもらっていたのですが、前半の幸せな場面では、多少太っていたいぐらいでしたから、私生活でも食べていましたね。妻子を失ったあとの後半の撮影までに、僕は数日空けてもらって、そこからはあまりご飯も食べられず、なかなか大変でした。
編集部 家族を失って8年経った現在の小山内は、過去の幸せな小山内と別人のようにも見えます。どのように役作りをされたのでしょうか?
大泉 どこか枯れた感じを表現できるといいな、とは思っていました。年月というものが人の悲しみを薄めてくれますから、小山内は何年経っても延々と落ち込んでいるのではなく、段々と喪失が日常になっていくはず。時間経過と歳の取り方がリアルに感じられるといいな、と考えていましたね。
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編集部 大泉さんも小山内と同じくお嬢さんがいらっしゃいますが、一番演じるのが難しかったシーンはどこですか?
大泉 亡くなった妻と娘に対面するシーンでしょうか。セットに入った瞬間から、「駄目だ、スタンバイでもここにはいられない」と思いました。そのとき監督が来てくれて、「この映画のなかで、小山内の涙は(最後に)1回だけあればいいと思っています」と言ってくれたんです。でも、心が動いちゃって……。耐えられずに泣いてしまいましたね。
編集部 小山内が涙を流す場面は、どれも印象的でした。予告編で用いられた新幹線の座席で涙を流すシーンも、娘の遺品を眺める場面も──。ご自身でご覧になっていかがでしたか?
大泉 自分が泣いている姿を見て、あらためて泣いてしまいました(笑)。やっぱり自分の演技が気になりますから、泣くというのは珍しいことだと思います。本当にいい脚本で、廣木監督が撮ってくれた画も素晴らしかったです。僕の娘はまだ小学生なんですが、「もしも」と思うと、どうしても小山内に感情移入してしまう。小山内は、ずっと心に蓋をして生きてきたんだと思います。蓋が閉じていたぶん、遺品のアルバムを開いて、もう一度娘に会えたような気がしたんでしょうね……。
編集部 伊藤沙莉さん演じる緑坂ゆいとホテルのラウンジで会話するシーンは、小山内の娘である瑠璃がだれかの生まれ変わりではないか、という仮説をめぐって対決しているような緊張感がありました。
大泉 そうですね。ほぼ全編を通してあのラウンジの場面から回想してゆく、という構成になっていたので、2、3日かけて撮影した長いシーンでした。たしかに、どんどん小山内が追い込まれていきますね。それこそ、ずっと蓋をしていたものが開けられてしまう、つらいシーンではありました。現場では、「生まれ変わり」というのはどういう状態なのか、仮に生まれ変わったとしても、それは前世の記憶「も」ある人なんじゃないか、といった話し合いをたくさんしました。もし瑠璃がだれかの生まれ変わりだとしたら、娘はどこに消えてしまうのだろう、というのが小山内の葛藤でしたから、彼の気持ちが着地できるようにしてほしいと、台本の遣り取りをすごくしたんです。最終的に、つらくもあるけれど温かさもある、よいシーンになったと思います。
編集部 小山内の人生は不思議な運命に翻弄されましたが、それは彼が誰よりも家族を愛する人だったからだと思います。演じ終えられた今、小山内堅という人物に対してどんな言葉をかけてあげたいですか?
大泉 彼の人生は手放しで喜べるような、必ずしも幸せなものではなかったかもしれない。しかし、彼が家族と過ごした時間というのは決して嘘ではないし、彼が与えることのできた幸せというものも沢山あったでしょうから、それは「良かったね」と言ってあげたいです。
編集部 多くの映画・ドラマに引っ張りだこの大泉さんですが、この『月の満ち欠け』はどんな作品として思い出に残りそうでしょうか?
大泉 ここまで重たい役というのは、今までになかったですね。自分の娘がちょうど映画の設定と同じくらいの時期に、父親としてしっかり子どもに向き合わなきゃいけない役を等身大の僕がやれたというのは、やはり意味があったのかなと思います。
編集部 最後に、大泉さんが生まれ変わるとしたら、どんな人生を歩みたいですか?
大泉 もう俳優はいいかな……(笑)。料理人なんかいいですね。いいお店をプロデュースするのには憧れます。一回転目はお客さんで満席にするけど、二回転目は予約を取らずに、常連さんとか好きな人だけがポッと入れるようなお店。僕がいつ行っても席を取れるようなお店を何軒も持っている人に、生まれ変わったらなりたいです。まあ、今でも別にやろうと思えばやれることですけどね(笑)。……でも、テレビを見ていたら、やっぱり「人を笑わせたいな」と思うんでしょうね。
(2022年10月)
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