『図書』2022年12月号 目次
平和へのパレード……大島幹雄
「ニーチェがわたしをダメにした」……須藤訓任
横光利一の時代とメディア……十重田裕一
発声からしてパリなのだ……片岡義男
気楽な現場……谷川俊太郎
シニア割……近藤ようこ
寓話……岡村幸宣
オオツノジカ絶滅にヒトは関与したのか……川端裕人
アイデンティティを渇望したネイミア……近藤和彦
こぼればなし
(表紙=杉本博司)
〇 二〇二二年もまもなく幕を下ろそうとしています。この一年は皆様にとってどのような年であったことでしょう。振り返れば、今年は国内外で歴史的ともいえる変動があった年でした。
〇 多くの専門家も予期しなかったロシアのウクライナ侵攻。その後一年近く経っても止むことのない砲声。安倍元首相銃撃と、それをきっかけとして広がった「政治とカルト」に対する徹底的な検証・対策要求の動き。ゴルバチョフ元大統領とエリザベス女王の死。エネルギー価格・諸物価の高騰と、急激な円安進行。政府・日銀の政策の手詰まり……。
〇 豪雨による河川の氾濫をはじめ自然災害は引き続き牙を剥き、新型コロナは、パンデミック発生から三年が経とうとする今なお、収束していません。
〇 これからどうなるのか。変化の中でどう進むか。何を大事にするか。私どもは新しい年も、出版物を通して、読者の皆様と一緒に模索したいと思います。
〇「……われわれが今日見出すような環境破壊は、人間社会における交換様式Cの浸透が、人間と自然の関係を変えてしまったことの所産である。それによって、それまで〝他者〟であった自然がたんなる物的対象と化した。このように、交換様式Cから生じた物神は、人間と人間の関係のみならず、人間と自然の関係をも歪めてしまう。のみならず、後者から生じた問題が、人間と人間の関係をさらに歪めるものとなる。すなわち、それは資本=ネーション=国家の間の対立をもたらす。つまり、戦争の危機が迫りつつある」。
〇 右は、一〇月に出た柄谷行人さんの待望の新著『力と交換様式』の序論の最後にある一節です(四〇―四一頁)。生産様式から交換様式への移行を告げた『世界史の構造』から一〇年余、本書では交換様式から生まれる「力」を論じ、柄谷さんの思想体系の核心が示されます。
〇 著者によれば、交換様式には、A 互酬(贈与と返礼)、B 服従と保護(略取と再分配)、C 商品交換(貨幣と商品)、D Aの高次元での回復、の四つがありますが、「Dに対して本格的に向き合うのは、事実上、本書が初めてだといってよい」(三四―三五頁)という作品です。
〇 先日、新著のサイン本作成のために柄谷さんがご来社くださいました。サインが終わり、会議室の机に堆く積み上がった白く眩しい百冊と、本の山を笑顔で眺める思想家の姿は壮観でした。
〇 二〇二二年度の文化勲章受章者として、吉川忠夫さん(中国史・中国思想史)、松本白鸚さん(歌舞伎俳優)らが発表されました。
〇 筒井清輝さんの岩波新書『人権と国家』が、第四三回石橋湛山賞に続き、第四四回サントリー学芸賞(思想・歴史部門)を受賞。令和四年度(第七六回)芭蕉祭 文部科学大臣賞を、復本一郎さんの『正岡子規伝』が受けました。
〇 片岡義男さんの連載「CDを積み上げる」と、岡村幸宣さんの連載「美術館の扉を開く」は、本号をもって終了となります。ご愛読ありがとうございました。