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『図書』2023年1月号 目次 【巻頭エッセイ】畑 尚子

◇目次◇
地名に込められた想い……阿部賢一
こころの紡ぎ出した物語としての『モモ』……河合俊雄
キーワードは 〈遠近法〉……新関公子
新春かるた……柳広司
秋には幽霊がよく似合う……ブレイディみかこ
「本当」の松明をかかげて……古谷田奈月
人生のかけらを集める……菊地暁
気になる言葉と国語辞典……柏野和佳子
教員多忙化問題の本質……髙橋哲
スマホに替えました……近藤ようこ
本の栞にぶら下がる……斎藤真理子
知的情熱を体で表現する……荻田泰永
二〇〇年で絶滅したジャイアントモア……川端裕人
トインビーと国際問題研究所……近藤和彦
百万塔陀羅尼と春日版……佐々木孝浩
こぼればなし
(表紙=杉本博司)
 
◇読む人・書く人・作る人◇
年中行事
畑 尚子
 

 日本人はハロウィンなど西洋の行事には熱中するが、日本の伝統行事はややおろそかにしている感は否めない。現在六月十六日が和菓子の日とされているが、これはよくある語呂合わせではなく、菓子を食べ厄除けと招福を祈るじょうという行事に由来する。江戸時代には将軍が大名らに菓子を配り盛大に行われたが、現在の和菓子の日は、クリスマスのように業界を潤すほどの盛り上がりには至っていない。

 かく言う私も、両親が死去し実家を売却した際に、雛人形を処分してしまった。初節句以来、毎年欠かさず飾り、雛菓子を添えていたもので、何とか救いたいと寄贈先を探したが、昭和三十年代の物は珍しくなく、引き取り手は見つからなかった。今では小さな夫婦雛のみを飾り、桃の花と雛あられを添えて細々とじょうの節句を祝っている。正月も一人で迎えるようになったが、母に教わった新潟風お雑煮となますを作り、黒豆やきんとんなどを買い、雰囲気だけは醸し出している。しかし、やはり年中行事は大勢で祝うものだろう。

 江戸時代、大奥や大名家の「奥」では、正月に福引が賑やかに行われていた。大奥出入りの道具商・山田屋は、福引で配られる品物を納入する「福引御用」も請け負っていた(『大奥御用商人とその一族』二〇二二年一〇月刊)。徳川家康の江戸入城を祝ったはっさくなど、かつて盛んでありながら時代とともに消えた行事も多いなか、福引は少し形を変えたが、正月に限らずくじを引き景品を配る行為として、商店街などで今でも行われている。

(はた ひさこ・日本近世史)
 
◇こぼればなし◇

〇 明けましておめでとうございます。本年も何卒よろしくお願い申し上げます。皆様にとって幸多き一年となることを祈念しております。

〇 二〇二三年は、小社創業一一〇年の節目の年にあたります。一九一三(大正二)年八月、神田神保町の一画に岩波茂雄が古書店を興し、翌年、漱石の『こゝろ』刊行で出版に乗り出します。ほどなく、一九一五年から一七年にかけて全一二冊を出してヒットしたのが『哲学叢書』で、これは小版元のスタートダッシュを支えた企画でした。以来一世紀余、哲学・思想の良書出版は、小社にとって一つの生命線となっています。

〇 一二月から刊行開始しました「スピノザ全集」(全六巻・別巻一、[編集]上野修・鈴木泉)は、その最新のラインナップとしてお届けするものです。一次資料の文献学的な研究の進展、フランスでの新全集の刊行など、一七世紀オランダの哲学者をめぐる世界の最新の研究成果が反映されたテクストと精細な訳注を提供、本邦初訳となる「ヘブライ語文法綱要」を含む全著作を収録した、完全版にして日本初の本格的全集となります。

〇 初回配本の第Ⅲ巻は、スピノザの主著である『エチカ』。翻訳にあたっては、「二〇一〇年にヴァチカン図書館の異端審問資料庫から偶然発見された『エチカ』のいわゆるヴァチカン写本」が、「もとのスピノザの手稿との近さから」、「できる限り尊重」されているそうです(同巻、上野修さん解説)。

〇 では、発見されたことでスピノザ研究の状況が一変したという「ヴァチカン写本」とはどういうものなのでしょう。それは、全集第Ⅵ巻『往復書簡集』にも名前が出てくるスピノザの友人チルンハウスが、「スピノザの許可を得て、写字生ファン・ヘントに作成を依頼したと見られるスピノザ自身の手稿の写し」です。「チルンハウスが旅行にあたって自分用に作らせたもの」であり、ほぼ新書判サイズで携帯できるようになっていたということです(以上、第Ⅲ巻解説)。

〇 第Ⅲ巻『エチカ』の口絵図版として、この写本の最初のページを載せていますのでぜひご覧ください。なお写本の画像は、全頁をヴァチカン図書館のホームページから閲覧できます。

〇 スピノザは、日本では畠中尚志さんの個人訳になる岩波文庫が長く読み継がれてきました。この度、品切書目も一斉重版し、全冊が読めるようになりました。

〇 一〇月に出た國分功一郎さんの岩波新書『スピノザ──読む人の肖像』も好評で、合わせてお読みいただけますと幸いです。「この間に成し遂げた自分の仕事の多くが、この本を書く上で欠かせないものだった」(「後書き」)とまで國分さんに言わせる本書の力に圧倒されることでしょう。

〇 斎藤真理子さん「本の栞にぶら下がる」が本号で最終回を迎えました。これまでご愛読ありがとうございました。新連載は、新関公子さん「東京美術学校物語」と、リレーエッセイ「『モモ』がうまれて50年」です。ご期待ください。

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