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<特集>電池の科学【『科学』2023年2月号 】

◇目次◇ 
【特集】電池の科学
固体電池──電池の新しい科学……菅野了次
電池の電気化学──電池の諸特性を左右する要因を探る……荒井 創
理論計算で探る電極―電解質界面のミクロな過程……館山佳尚
結晶構造とイオン拡散──電極材料および固体電解質材料……藪内直明
固体内イオンの高速拡散と超イオン伝導体……河村純一
電極界面の反応──実験で見えてきたこと……入山恭寿

[巻頭エッセイ] 
人文科学の「文理融合」……近藤泰弘

いかなる場所に人々は集まり住むのか?──街と道の千年紀シミュレーション……青木高明
「みる」ことの普遍的な数理──100年ぶりの発見……木村建次郎
嗅覚研究から見える脳のしくみ2──嗅覚システムの初期設定……森 憲作・坂野 仁

[連載]
研究者,生活を語る2 研究者夫婦の常識的日常……小澤知己
数学者の思案9 数学研究とフランス語……河東泰之
リュウグウのささやきを聴く6 リュウグウがまとうヴェール……橘 省吾
広辞苑を3倍楽しむ118 殻を破る……西田和記
竹取工学物語6 ⽵の「しなり」と「形」を利⽤した先⼈たちの智恵と技術……佐藤太裕
これは「復興」ですか?71 「中間貯蔵施設」地権者の「真の復興」……豊田直巳
3.11以後の科学リテラシー121……牧野 淳一郎

[科学通信]
伊豆・小笠原海溝最深部への潜航備忘録……道林克禎
E. Calabiに思いを寄せて……宮岡礼子
SARS-CoV-2の経時的変化と療養解除について──あるCOVID罹患者による考察……川上浩一

次号予告
 

◇巻頭エッセイ◇
人文科学の「文理融合」
近藤泰弘(こんどう やすひろ 青山学院大学文学部教授・日本語学会会長) 
 

 「文理融合」とよく言われる。何が文理融合であるかは,実は,あまり自明ではないのだが,一応,文系の学問で,定量的,数理的分析を主要な方法として使用することと仮定してみよう。実際に,現在,多くの大学で,文理融合系の学部ができていると言われるが,それらを調べてみると,その大半が,いわゆるデータサイエンスが関わる「情報」と銘打ったものであるというのが実態であり,やはり「文理融合」と言われているものは,従来の伝統的な人文社会科学の研究方法の上に,コンピュータを使ったデータサイエンスによる数理的研究を加味するのが大方の趨勢であると言える。

 人文科学は,何らかの意味で,主にテキストを扱う学問である。だから,そのテキストをまずコンピュータで加工すること(例えば,TEI(Text Encoding Initiative)のような構造的なマークアップを施したコーパス(テキスト・データベース)を作成するなど)や,その統計的処理などが期待されるのは当然とも言える。ただ,そこから「文理融合」が自然にすぐに進むかといえば,現実的には,かなり大きな壁がある。人文系の従来の研究者の側には,行いたい研究内容を実現するためにどういうデータ処理が必要であるかがなかなかわからないという大きな問題がある。逆に,理系研究者からすると,人文系側の真のニーズがわからなければ,同じ学部にいたり,共同研究をしていたりしても,人文科学が行いたい本当の問題の解決には繋がらないところがある。「文理融合」を進めるには,人文系の方で,自分でプログラミングをして,自らの問題を具体的なデータサイエンスのプロセスに載せることができる研究者をどうしても育成していかなくてはならないと思われる。そのような人は,共同研究をする理系の研究者に何が必要なのかを伝えるインタープリタ(翻訳者)としての役割も果たしてくれるだろう。古典日本語のくずし字のOCRを開発した,カラーヌワット・タリン氏のように,文学・語学の研究から深層学習研究に進むといったような例が増えることが望まれるのである。

 このように,「文理融合」の学部・学科を作ることはそれはそれで意義があるが,さらには,伝統的な学部でも,自らの立場を改革するという意識をもって,情報教育を強化していくことが必須であると思われる。長い間,私自身も文学部でデータサイエンス教育をしてきたが,プログラミングは,習得の早い遅いの個人差が非常に大きいものだと感じる。だから,大学の学部教育で,適切なカリキュラムを用意して,研究と一体化した形で自然に学習していけるようにすることが望ましいと思う。伝統的な文献研究の方法を学ぶのにも時間がかかる上に,さらに数学やプログラミング技術の習得も加わるわけで,研究者にとっては大変だが,学生には新たなスキルも同時に獲得できるというメリットがあるとも言える。今後は,AI(人工知能)の発達で,プログラムのコーディングそのものはかなりAIに頼ることができるようになると思われるが,まったく自分でやったことのないことをAIだけに実行させることは困難であろう。

 私が会長を務めている日本語学会でも,IT技術を用いた研究は徐々に増えてきている。「融合」だけに期待せず,自らを改革していかなくてはならないという当たり前の結論にはなったが,それは,かなり長い道のりになる。若い世代にはおおいに期待したいのである。

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