『図書』2026年4月号 目次 【巻頭エッセイ】岩合光昭「ネコさまの許可を待つ、ヒトの僕」
かれらは何を咥えているか……尾崎名津子
中世アラブの猫……西尾哲夫
長靴をはいた猫と、酒飲みの牢人……横山泰子
正倉院染織品の保存のしごと……片岡真純
「断」と「脱」……今西祐一郎
翻訳はつねに現代語訳……金原瑞人
権威に抗い、無冠を寿ぐ……神野紗希
光る花の幻をみる……大場裕一
憧憬──ケストラーを訪ねて(下)……武田時昌
社会を科学する/近代市民社会の礎に触れる……山本貴光
『トリスタン・イズー物語』にみる母系残存の要素……鹿島茂
女の地獄、苦痛の都……中村佑子
こぼればなし
4月の新刊案内
[表紙に寄せて]朝焼けのトランペット/田家秀樹
僕は半世紀以上、動物写真家をしていて、たくさんの動物と過ごしてきました。なので、動物の知識は一応持っている……つもり……はず……なのに、動物は見れば見るほど、理解していると思えば思うほど、わからなくなります。
昨今、僕はネコ写真家と言われるほど、ネコと対峙する日が多いのですが、ネコのことは知っている、次はこう動くはずだ、とカメラの位置や角度を決めて待っていたりすると、その思惑は見事に外れます。そんなとき頭を抱えてネコを見ると、調子づくな、と冷ややかな目で一瞥される。
つくづく思うのです。ネコの頭の中に比べたら、ヒトの考えなど取るに足らない。それなら見極めてやる!と真剣になればなるほど、ひらりひらりとかわされる。しなやかなネコをバタバタと追う無骨なヒトの僕。ああ、と息を切らし肩を落とすと、そこは陽だまり。心地良い風。ずっとそこにいたかのようにゆったりと毛繕いするネコ。僕の呼吸がネコと同じくらいの息遣いになる頃、そばにいてもいいよ、とネコの許可がおります。
そんな日は良いものが撮れるのです。
(いわごう みつあき・動物写真家)
〇 勢いを増す植物に、生命の息吹を感じる季節です。しかし、15年前のあの春は、花々も新緑も色を失って見えました。2011年3月11日に発生した東日本大震災により、無数のいのちと暮らしが失われました。出版に、本に、何ができるのか──。翌月8日発売の雑誌『世界』の表紙には、「生きよう!」の文字が大きく掲げられました。模索が続くなか、切実な願いを託した言葉でした。
〇 震災翌年に刊行され大きな反響を呼んだ、稲泉連さんによるルポルタージュ『復興の書店』の増補版を、この2月、岩波現代文庫にて刊行いたしました。すでに町の本屋さんにとって厳しい時代に差しかかっていたにもかかわらず、本書には、東北の被災地で本が「生活必需品」として人びとに求められ、それに応えるため、自身も被災者でありながら本を届けるために苦闘した書店員の姿が、鮮明に記録されています。
〇 その後も、書店数の減少は止まりません。稲泉さんは現代文庫版のあとがきで、取材した書店のいくつかも残念ながら閉店したことを記しています。一方、「補章 能登の書店」には、2024年1月1日の能登半島地震後の被災地でも、本が多くの人びとに望まれていたことが描かれています。珠洲市「いろは書店」の店主で、被災後、避難所ですぐに書店の再開を決めた八木久さんは、こう語ります。「町にとって本屋は花や緑と一緒。そういうものが街にあることによって、空気がきれいになったり、心がきれいになったりするんじゃないですかね」。久さんは昨年9月に亡くなられました。遺志を継いだ息子の淳成さんが、年内には再建を果たす予定です。
〇 韓国文学を紹介する出版社と書店を営む金承福さんが、まだ日本では知られていなかった作家ハン・ガンの『菜食主義者』日本語版を出版したのは、2011年5月。災後の渦中にあって金さんの気持ちは沈んでいましたが、『菜食主義者』の書評により高良留美子さんを知り、高良さんの詩「木」を読んで元気を取り戻したことを、著書『本を作るのも楽しいですが、売るのはもっと楽しいです。』(2025年11月、小社刊)で振り返っています。「一本の木のなかに/まだない一本の木があって/その梢がいま/風にふるえている」。金さんが引いたこの詩に触れ、本というものもまた、源は木であることに思いをめぐらせます。
〇 受賞報告です。第42回大平正芳記念賞を、安藤丈将『香港を耕す──農による自由と民主化運動』が受賞いたしました。
〇 本社ビルの耐震補強および設備更新工事に伴い、3月下旬に、神保町の岩波書店一ツ橋ビル(4階)と永田町の海運ビル(4・7階)へ、約1年間の予定で移転いたしました。お取引先各位にはご不便をおかけいたしますが、よろしくお願い申し上げます。




