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田家秀樹 [表紙に寄せて]朝焼けのトランペット[『図書』2026年4月号より]

 岩波書店のウェブマガジン「たねをまく」で「ジブリと音楽」という連載を担当するようになって、ジブリ映画の印象が一変した。その要因が「音楽」である。ジブリの巨頭──高畑勲、宮﨑駿両監督とプロデューサーの鈴木敏夫が、作品と音楽をどんな風に作り上げたかは「語られざるジブリ」なのではないだろうか。

 世界の民族音楽やクラシックに精通し、自ら楽譜を書き、演奏や使用楽器の指定もする高畑勲。対して、常に音楽を流しながら作画する宮﨑駿の作品は、音楽が内包され、絵と一体化している。絵を見ているだけで音楽が流れてくる。『天空の城ラピュタ』の一場面を描いたこの絵はそんな例だろう。

 膨大な「イメージボード」の中の一枚で、出来事や小道具の説明はない。でも、雲海の向こうから昇る朝日に向かって立つ主人公パズーの姿は、宮﨑駿のイメージする理想の少年像を思わせる。まっすぐで凛々しくて健気。もう一人の主人公である少女シータを守ろうとする静かな決意。手に持っているのはトランペットだ。

 僕らが聴いてきたロックやポップスは、概して夜に聴くものだった。「夜空のトランペット」「星空のトランペット」というヒット曲もあった。特にロックは酒と煙草がつきものの、夜の音楽だった。この絵は違う。トランペットは朝の澄み切った空気の中で、新しい始まりを告げる楽器として使われている。

 絵を見ながら思い浮かべた曲があった。トランペットの演奏曲ではないが、ビートルズの「HERE COMES THE SUN」だ。朝、目が覚めた時に聞きたくなるロックはあの曲が初めてだった。ここからまた一日が始まる。生活と一体になった音楽の聴き方を教えてもらった。

 2026年4月。新しい環境に踏み出してゆく若者たち、そして少年や少女たちが、こんな風に期待に満ちた朝を迎えていることを願うばかりだ。

(たけ ひでき・音楽評論家、ノンフィクション作家)


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