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『図書』2026年5月号 目次 【巻頭エッセイ】杉田敦「民主主義から政治を擁護する」

◇目次◇
民主主義から政治を擁護する……杉田敦
野に立つ民話採訪者……清水チナツ
恐竜の絵とお話で壁を越える……真鍋真
デュボイス『黒人のたましい』再考……森里武
コトづくりへの誘い……村松秀
「私」の居場所を探して……石原悠子
あのかがやくイモムシ……桃山鈴子
オータン詣……ダーリング常田益代
『ゆふすげ』のしらべ(上)……藤田真一
当たり前の日々を生きて暮らす……神野紗希
染付に浮かんだホタルが映すもの……大場裕一
美文の小説家──和巳から露伴へ……武田時昌
東洋文学ギリシア・ラテン文学……山本貴光
アーサー王伝説群と純粋母系家族の痕跡……鹿島茂
人類にとって必要だから……中村佑子
こぼればなし

五月の新刊案内

(表紙=「タイガーモスにつながれた凧で飛ぶパズーとシータ」©Hayao Miyazaki『宮﨑駿イメージボード全集2 天空の城ラピュタ』より)
 
 
◇読む人・書く人・作る人◇
民主主義から政治を擁護する
杉田敦
 

 このほど、イギリスの政治学者バーナード・クリックの『政治の擁護』(原著初版1962年)を岩波文庫で上梓した

 この本でクリックは、政治は古代ギリシアで行われた後、近代のイギリスとアメリカをはじめとする欧米の一部地域だけで展開したとしている。日本あたりは含まれないわけで、欧米中心主義だという反発もありそうだが、そう単純な話ではない。

 クリックによれば、政治とは多様な利益や価値観の存在を受け止めつつ、それらを話し合いによって何とか調停しようとする努力に他ならない。そうした政治が全体主義諸国で否定されたことは自明だが、クリックの慧眼は、民主主義も政治の敵になりうる、とした点にある。選挙に勝利した側が反対派の存在を軽視し、強引に物事を進めようとすれば、政治は破壊される。

 クリックの時代には政治の典型とされたアメリカは、今では大統領が専制君主のようにふるまう体制に転じ、政治の脆さを見せつけている。この日本でも、圧倒的な支持を得た政権が、国会審議を形骸化して暴走することにならないか。そのような問いと共に、本書を手に取っていただければ幸いである。

(すぎた あつし・政治理論)

 
◇こぼればなし◇

〇 「本の街」神保町に、建て替えを経て三省堂書店が戻ってきました。連日、大いに賑わいを見せています。英国発の情報誌『Time Out』の「世界で最もクールな街」1位にも選ばれ活気づく神保町ですが、複数の再開発計画が進んでおり、刻々と変わる風景に淋しさも覚えます。三省堂が工事のために一時閉店したのは、2022年。その年には、神保町の顔の一つであったミニシアター、岩波ホールが、新型コロナウイルス感染症の流行による経営環境の変化によって幕を下ろしました。

〇 岩波ホールと岩波書店は、同じ創業家に由来する「岩波」の名を冠していますが、別の法人です。総支配人の髙野悦子さんを中心に、「良いものはきっと受け入れられる」という信念のもと岩波ホールが取り組んだ、世界の埋もれた名画を発掘・上映する運動〈エキプ・ド・シネマ〉には、岩波書店の出版活動も少なからず鼓舞されてきました。

〇 岩波ホールは、イランの映画も多く上映しました。バフマン・ゴバディ監督「わが故郷の歌」「亀も空を飛ぶ」、ハナ・マフマルバフ監督「子供の情景」、モハマド・シルワーニ監督「イラン式料理本」、メヘルダード・オスコウイ監督「少女は夜明けに夢を見る」──。触れる機会の少ないイランの文化や社会、とりわけ子どもや女性の姿を伝え、人間の尊厳を問う作品ばかりです。多くの子どもたちが殺されている新たな戦争に、髙野悦子さんの座右の銘、「すべての女性運動は平和運動をもって帰結する」(スウェーデンの思想家、エレン・ケイの言葉)を、あらためて思い返しています。

〇 映画は映像の力によって異なる場所・時間に生きる人間への共感へと導いてくれますが、本は言葉の力で、それをかなえてくれます。約1000年前に編まれたフェルドウスィー『王書』(シャー・ナーメ)は、いまもイランの人びとに愛され暗誦されている、ペルシャの壮大な叙事詩です。歴代の王たちの列伝である『王書』が繰り返し描くのは、英雄や王の栄華よりも、戦争がもたらす悲劇や権力の破綻です。「君にとって、富・黄金・大宮殿の逸楽は永遠につづかぬもの。だが、君の良き追憶が人の言葉のなかにとどまることはある。その思い出を価値なきものと見なしてはいけない」(岡田恵美子訳、岩波文庫、68頁)。しばらく品切れとなっていた『王書』を、この4月に重版いたしました

〇 「クリックによれば、政治とは多様な利益や価値観の存在を受け止めつつ、それらを話し合いによって何とか調停しようとする努力に他ならない」。バーナード・クリック『政治の擁護』刊行に際し、訳者の杉田敦さんが今号にご寄稿くださった「民主主義から政治を擁護する」のなかの言葉です。政治に限らず、私たちにとって絶えず必要な努力と読めます。


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