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【特別公開】初心の9条[高見勝利編『あたらしい憲法のはなし 他二篇』より]

高見勝利編『あたらしい憲法のはなし』書影

 高見勝利編『あたらしい憲法のはなし 他二篇──付 英文対訳日本国憲法』には、日本国憲法が公布・施行された1946-47年発行の小冊子が3篇収録されています。
・全国の家庭に配布された憲法普及会編「新しい憲法 明るい生活」
・中学1年生用の社会科の副教材「あたらしい憲法のはなし」
・法制局閲・内閣発行の「新憲法の解説」
これらのなかから、戦争放棄にかんする部分を抜粋し、掲載いたします(それぞれの詳しい成立事情については、同書内の編者解説をご参照ください)。


「もう戦争はしない」──憲法普及会編「新しい憲法 明るい生活」(1947年5月3日発行)より

 私たち日本国民はもう二度と再び戦争をしないと誓った。(第9条)

 これは新憲法の最も大きな特色であって、これほどはっきり平和主義を明かにした憲法は世界にもその例がない。

 私たちは戦争のない、ほんとうに平和な世界をつくりたい。このために私たちは陸海空軍などの軍備をふりすてて、全くはだか身となって平和を守ることを世界に向って約束したのである。わが国の歴史をふりかえってみると、いままでの日本は武力によって国家の運命をのばそうという誤った道にふみ迷っていた。殊に近年は政治の実権を握っていた者たちが、この目的を達するために国民生活を犠牲にして軍備を大きくし、ついに太平洋戦争のような無謀な戦いをいどんだ。その結果は世界の平和と文化を破壊するのみであった。しかし太平洋戦争の敗戦は私たちを正しい道へ案内してくれる機会となったのである。

 新憲法ですべての軍備を自らふりすてた日本は今後「もう戦争をしない」と誓うばかりではたりない。進んで芸術や科学や平和産業などによって、文化国家として世界の一等国になるように努めなければならない。それが私たち国民の持つ大きな義務であり、心からの希望である。

 世界のすべての国民は平和を愛し、二度と戦争の起らぬことを望んでいる。私たちは世界にさきがけて「戦争をしない」という大きな理想をかかげ、これを忠実に実行するとともに「戦争のない世界」をつくり上げるために、あらゆる努力を捧げよう。これこそ新日本の理想であり、私たちの誓いでなければならない。

もう戦争はしない

「6 戦争の放棄」──文部省「あたらしい憲法のはなし」(1947年8月2日発行)より

 みなさんの中には、こんどの戦争に、おとうさんやにいさんを送りだされた人も多いでしょう。ごぶじにおかえりになったでしょうか。それともとうとうおかえりにならなかったでしょうか。また、くうしゅうで、家やうちの人を、なくされた人も多いでしょう。いまやっと戦争はおわりました。二度とこんなおそろしい、かなしい思いをしたくないと思いませんか。こんな戦争をして、日本の国はどんな利益があったでしょうか。何もありません。ただ、おそろしい、かなしいことが、たくさんおこっただけではありませんか。戦争は人間をほろぼすことです。世の中のよいものをこわすことです。だから、こんどの戦争をしかけた国には、大きな責任があるといわなければなりません。このまえの世界戦争のあとでも、もう戦争は二度とやるまいと、多くの国々ではいろいろ考えましたが、またこんな大戦争をおこしてしまったのは、まことに残念なことではありませんか。

 そこでこんどの憲法では、日本の国が、けっして二度と戦争をしないように、二つのことをきめました。その一つは、兵隊も軍艦も飛行機も、およそ戦争をするためのものは、いっさいもたないということです。これからさき日本には、陸軍も海軍も空軍もないのです。これを戦力の放棄といいます。「放棄」とは「すててしまう」ということです。しかしみなさんは、けっして心ぼそく思うことはありません。日本は正しいことを、ほかの国よりさきに行ったのです。世の中に、正しいことぐらい強いものはありません。

 もう一つは、よその国と争いごとがおこったとき、けっして戦争によって、相手をまかして、じぶんのいいぶんをとおそうとしないということをきめたのです。おだやかにそうだんをして、きまりをつけようというのです。なぜならば、いくさをしかけることは、けっきょく、じぶんの国をほろぼすようなはめになるからです。また、戦争とまでゆかずとも、国の力で、相手をおどすようなことは、いっさいしないことにきめたのです。これを戦争の放棄というのです。そうしてよその国となかよくして、世界中の国が、よい友だちになってくれるようにすれば、日本の国は、さかえてゆけるのです。

 みなさん、あのおそろしい戦争が、二度とおこらないように、また戦争を二度とおこさないようにいたしましょう。

戦争放棄

「第2章 戦争の放棄」──法制局閲「新憲法の解説」(内閣、1946年11月3日発行)より

 本章は新憲法の一大特色であり、再建日本の平和に対する熱望を、大胆率直に表明した理想主義の旗ともいうべきものである。

 いうまでもなく、戦争は、最大の罪悪である。しかも、世界の歴史は戦争の歴史であると言われるように、有史以前から戦争は絶えない。第一次世界大戦の後に出現した国際連盟は第二次大戦を阻止し得なかったし、今日新たに、世界平和を念願して生れた国際連合も、目的を貫徹するためには、加盟国はお互に非常な努力が必要とされるのである。

 しかし、何とかして、人類の最大不幸であり、最大罪悪である戦争を防止しなければならないことは、世界人類の一人一人が胆に銘じて念ずるところである。

 一度び戦争が起れば人道は無視され、個人の尊厳と基本的人権は蹂躙され、文明は抹殺されてしまう。原子爆弾の出現は、戦争の可能性を拡大するか、又は逆に戦争の原因を終息せしめるかの重大段階に到達したのであるが、識者は、まず文明が戦争を抹殺しなければ、やがて戦争が文明を抹殺するであろうと真剣に憂えているのである。

 ここに於て本章の有する重大な積極的意義を知るのである。すなわち、政府は衆議院において所信を述べ、「戦争放棄の規定は、わが国が好戦国であるという世界の疑惑を除去する消極的効果と、国際連合自身も理想として掲げているところの、戦争は国際平和団体に対する犯罪であるとの精神を、わが国が率先して実現するという、積極的な効果がある。現在のわが国は未だ十分な発言権を以てこの後の理想を主張し得る段階には達していないが、必ずや何時の日にか世界の支持を受けるであろう、」云々

 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実真剣な態度で求めている。国権の発動たる戦争と、武力による威嚇や武力の行使は、永久に放棄する旨を宣言したのである。そしてさらに、この目的を達成するためには、陸海空軍その他、一切の武力を持たず、国の交戦権はこれを認めない、と規定したのである。

 侵略戦争否認の思想を、憲法に法制化した例は絶無ではない。例えば1791年のフランス憲法、1891年のブラジル憲法の如きはそれである。しかしわが新憲法のように、大胆に捨身となって、率直に自ら全面的に軍備の撤廃を宣言し、一切の戦争を否定したものは未だ歴史にその類例を見ないのである。

 これに対して、議会では多くの疑問が提出された。即ちまず、本規定によりわが国は自衛権を放棄する結果になりはしないか。よし放棄しないまでも、将来、国際的保障がなければ、自己防衛の方法がないではないか、という点が、誰しも感ずる疑問であろう。しかし、日本が国際連合に加入する場合を考えるならば、国際連合憲章第51条には、明らかに自衛権を認めているのであり、安全保障理事会は、その兵力を以て被侵略国を防衛する義務を負うのであるから、今後わが国の防衛は、国際連合に参加することによって全うせられることになるわけである。

法制局閲「新憲法の解説」書影

 

編者略歴
高見 勝利(たかみ・かつとし)
1945年生。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。法学博士。北海道大学名誉教授、上智大学名誉教授。憲法学専攻。『憲法改正とは何だろうか』『現代日本の議会政と憲法』『政治の混迷と憲法』(岩波書店)ほか。

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