きくちちき [表紙に寄せて]空を飛ぶ、山を飛ぶ[『図書』2026年5月号より]

タイガーモスにつながれ、パズーとシータを乗せた凧が風にゆられ空を飛ぶ。なんて気持ちのいい絵なのだろう。どこまでも飛んでいけるような、どこまでも飛んでいきたい気持ちになる。映画は何度観たか覚えてないけれど、いつ観てもやっぱり楽しい。物語をすべて把握しているにもかかわらず、いつもはらはらわくわく、感動させられる。体の細胞がざわざわするのになんとも心地いい。あとからあとから力がみなぎってくるような気さえする。
ふと、「アニメージュ」を見ながら何も考えずに宮﨑さんの絵を真似して、楽しく描いていた頃の気持ちに戻る。友達と共有することなく、自分ひとりだけの世界に浸ってひたすら手を動かすのが、本当に気持ちよかった。映画とは違った透明感と奥行きのあるタッチに引き込まれ、ただ真似をして描くだけでも、その先の世界へ連れていってもらえるような感覚になったのを覚えている。
その頃はまさか、将来の自分が絵や物語を描く仕事をできるなんて思いもしなかった。パズーとシータが手を繋いで冒険したのとは違うけれど、いま絵本作家としてぼくも息子と手を繋ぎ、愛犬を連れ、物語のなかを冒険して、山を飛ぶ。現実でも物語のなかでも、うまくいったり、いかなかったり、難しくて楽しい冒険は続いているが、それらの世界を行ったり来たりしながら、今日も息子や愛犬といっしょに、アトリエから見える山をながめ散歩をする。
思えば、ぼくが感じた気持ちよさを、いろいろな形で共有してもらえるように、今なお遠い憧れを抱きながら物語を描いているのかもしれない。あの山のうえをいつまでも気持ちよく飛びたくて。
(きくち ちき・絵本作家)




