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『科学』5月号 【特集】ゆらぐ基盤:ことば・科学・統計

◆目次◆

【特集】 ゆらぐ基盤:ことば・科学・統計
統計の信頼性とは何か……竹内 啓
[鼎談]崩れる “科学の条件”(1):原理に従うのか,権威に従うのか……上西充子・影浦 峡・黒川眞一
3.11以後の科学リテラシー……牧野淳一郎

巻頭エッセイ 
国際単位系(SI)の改定に寄せて……北野正雄


[座談会]人工知能研究は何をめざすか(後編)……池上高志・石黒 浩・梅田 聡・佐藤理史・中島秀之・開 一夫

[新連載]
子どもの算数,なんでそうなる? イジワル問題……谷口 隆

[連載]
葬られた津波対策をたどって〈5〉……島崎邦彦
「米」遊学〈5〉日本蕎麦のような歯ごたえのイデワッパ……大村次郷
これは「復興」ですか?〈26〉特定復興再生拠点区域……豊田直巳
利他の惑星・地球[生命編]〈2〉〈プログラムされた自己解体モデル〉の真髄……大橋 力
手紙がひらく物理学史〈8〉国際度量衡委員会と長岡半太郎……有賀暢迪
ちびっこチンパンジーから広がる世界〈209〉33年目の野生チンパンジー調査……松沢哲郎
失われゆく原子力発電の正当性と将来性〈16〉連載を総括して……佐藤 暁
科学技術・イノベーション政策のために〈13〉仮説なき研究の時代……小林信一

[科学通信]
〈リレーエッセイ〉地球を俯瞰する自然地理学 山地斜面の変化と土砂災害のサイクル……磯 望
〈コラム〉東京電力原発事故の情報公開 
 実態を隠すウェブサイト――東電の姿勢には触れず,民間シンクタンクを批判する資源エネルギー庁……木野龍逸
 
今月の表紙
次号予告
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表紙=盛田亜耶 「アダムの創造」2016年より作品左側 48.5×92.0cm 切り絵,アクリル絵具  
photo by Ken KATO, courtesy of gallery ART UNLIMITED
表紙デザイン=佐藤篤司 本文イラスト=山下正人 連載「利他の惑星・地球」タイトル・デザイン=木下勝弘 
 

◆巻頭エッセイ◆

国際単位系(SI)の改定に寄せて

北野正雄(きたの まさお 京都大学理事・副学長)

 2018年の国際度量衡総会で採択された新しい国際単位系(SI)は,2019年5月20日からいよいよ実施される.国際単位系の制定(1954年)以来の大改定であり,特に長年使われてきたキログラム原器が廃止され,代わりにプランク定数の数値の固定(定義値化)により,質量の単位「キログラム」の大きさが定められるようになったことが注目される.

 すでに,1983年にはメートル原器に代わって真空中の光速を定義値化することで長さの標準が実現されていたのだが,今回の改定によって,7つのSI基本単位の大きさが,すべて物理定数の数値の定義値化によって定まるようになった.
少数の物理量に対して基本とする単位を定め,他の物理量の単位をそれらの組み合わせで表現する「単位系」という考え方は,広範な単位を体系化する上で重要なものである.SIもこの考え方に則っている.また,基本単位の大きさを具現化するために,各時代における最先端の実験技術が惜しみなく投入されてきた.

 原器といった人工物ではなく,物理現象を支配する物理定数によって基本単位の大きさを定めることは,普遍性,再現性の点で優れた方法であり,「全ての時代に,全ての人々に」というフランス革命時に誕生したメートル法の理念を徹底追求した結果である.自然法則に基づく単位は,地球外の知的生命とさえ共有可能である.

 19世紀の電磁気学の発展過程において,多くの単位系が考案されてきたが,20世紀に入ってからは,徐々に集約が進んできた.ガウス単位系は,力学の単位系CGSを元にした静電単位系と電磁単位系を組み合わせたものであり,理論家によって好んで用いられてきた.一方,ジョルジによって提案された,SIの前身であるMKSA単位系は,電磁気のための基本単位を付加するという画期的アイデアに基づいている.ただし,それまでの単位系との相互運用を配慮して,電流間の「力」によって電磁量を定義するという方式を継承していた.電流の単位「アンペア」が真空の透磁率の定義値化によって定められていたのは,このような事情によっている.

 今回のSIの改定では,アンペアの定義が従来の「力」によるものから,電気素量の定義値化によるものに移行した.この新たな定義により,ガウス単位系という過去のしがらみから逃れ,電磁気学の体系はより明快なものになろうとしている.

 単位系の選択は物理観の現れであり,物理現象を記述する言語でもある.単位系が違えば,物理法則を表す方程式は異なった表現をとる.単位系の統一は最優先課題なのであるが,リンガ・フランカとしてのSIの普及には人間の世代交代の時間スケールを要している.佐藤文隆氏との共著『新SI単位と電磁気学』(岩波書店)では,歴史的変遷を含めて単位や単位系の意義について詳しく述べた.興味を持たれた方は,ぜひ一読いただきたい.

 今回のSIの改定を機に,科学の進歩に欠かせないインフラとしての単位系の意義が広く理解され,活用されることを期待したい.

 

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