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『科学』2019年9月号 【特集】発酵食の世界

◆目次◆

[鼎談]日本人と納豆――アジアのなかで味わいの歴史と多様性を考える……石塚 修・木村啓太郎・横山 智

主食となる発酵食――高い人口密度を支えるエチオピアの巨大イモをめぐって……藤本 武

酒は食べ物――エチオピアとネパールの事例……砂野 唯

モンゴル国の馬乳酒……森永由紀

ラオスの味,パデークを科学する……丸井淳一朗

東南アジアの餅麹と新大陸起源の唐辛子との関係……山本宗立

「食べる茶」からみえるタイ社会の変化……佐々木綾子

 

巻頭エッセイ 

福島県の甲状腺検査結果の評価とICRP文書をめぐって……編集部

 

[連載]

葬られた津波対策をたどって〈9〉……島崎邦彦

「米」〈9〉遊学米とココナツ汁で作る朝食……大村次郷

これは「復興」ですか?〈30〉聖火リレー……豊田直巳

利他の惑星・地球[生命編]〈6〉〈プログラムされた自己解体〉は仮想か実在か―― [2]〈インパルス・ショック〉は牙城たちを墜とせるか……大橋 力

里山考――失われゆく「豊かさ」をみつめて〈2〉トンボやセミの宝庫だったクワ畑……永幡嘉之

3.11以後の科学リテラシー〈81〉……牧野淳一郎

手紙がひらく物理学史原子〈12〉模型をめぐる長岡半太郎とラザフォードの接点……有賀暢迪

ちびっこチンパンジーから広がる世界〈213〉チンパンジー,ボノボ,ヒト,それぞれの赤ちゃんへの関心……川口ゆり・狩野文浩・友永雅己

アルキメデスからの贈り物〈21〉和算の幾何学に現れたアルベロス,田村の問題……奥村 博

子どもの算数,なんでそうなる?〈3〉マルとペケ……谷口 隆

 

[科学通信]

〈リレーエッセイ〉地球を俯瞰する自然地理学 火山災害への自然地理学的アプローチ……山縣耕太郎

〈リレーエッセイ〉地球を俯瞰する自然地理学 これからの流域減災論……松四雄騎

 

表紙=盛田亜耶 「最後の晩餐――イエスの手Ⅱ」2018年 54.0×74.3 cm 切り絵,アクリル絵具   

photo by Tomonori OZAWA, courtesy of gallery ART UNLIMITED

表紙デザイン=佐藤篤司 本文イラスト=山下正人 ときえだ ただし 連載「利他の惑星・地球」タイトル・デザイン=木下勝弘 

 

◆巻頭エッセイ◆

福島県の甲状腺検査結果の評価とICRP文書をめぐって

編集部

 7月8日の福島県の「県民健康調査」検討委員会(以下,検討委員会)では,「甲状腺検査本格検査(検査2回目)結果に対する部会まとめ」(以下「部会まとめ」)に対し,委員から異論が出され,委員の意見を改めて集約することになった.それに対応する文書が,7月24日に「甲状腺検査評価部会「甲状腺検査本格検査(検査2回目)結果に対する部会まとめ」について」(以下,「まとめについて」)として公表された.部会まとめは修正はされず,但し書き文書が付されるという形である.注意すべき点は,今回の評価は現時点における評価であると留保がつけられており,評価が確定したとは検討委員会はみなしていないことである.

  部会まとめにおいては,「地域別の悪性ないし悪性疑いの発見率について,先行検査で地域の差はみられなかったが,性,年齢等を考慮せずに単純に比較した場合に,本格検査(検査2回目)においては,避難区域等13市町村,中通り,浜通り,会津地方の順に高かった.」ことが記載されている.調査のデザインとしては,先行検査と称される1巡目の検査結果を原発事故の影響のないベースラインとみなし,2巡目以降の本格検査で原発事故の影響を判定するとされてきた.したがって,本格検査1回目となる2巡目の評価が,調査デザインにおいて中心的な位置づけにあった.ここで述べられていることは,先行検査と同様の地域区分でみると,甲状腺がんの悪性ないし悪性疑いの発見率に地域差があるということである.

  これは,原発事故の影響以外の要因が考えにくく,非常に重大な結果である.先行検査と同様に評価するならば,地域差は明白であり,原発事故の影響を考えざるをえない.

 部会においては,「多くの要因が影響していることが想定される」(部会まとめ)として,検査間隔の差(甲状腺がんは年齢が上がると発症率が上がることが知られている)は示されたが,それを含めても明白な差がやはりあった.それ以外の要因について,分析した結果は具体的には示されなかった.この点について,7月8日の検討委員会でも委員から疑問が示された.検討委員会後の記者会見で,鈴木元・部会長(当時)は,「地域4区分での解析は調整ができないとして捨てました,諦めました.」と答えた.(部会まとめとその分析の問題,経緯と課題については,本誌8月号(「甲状腺検査の評価は適切か」の3本の論考)および本誌電子版記事( https://www.iwanami.co.jp/kagaku/eKagaku_201907_Hiranuma.pdf )を参照されたい.) ここで繰り返し指摘しておきたいのは,影響のみえる分析を捨てて,影響のみえない分析を新たに採用するという,後付けで分析方法を変えた問題である.

  7月24日には,NPO「3・11甲状腺がん子ども基金」が,検討委員会で報告されていない事故当時4歳の患者が 3巡目検査に存在することを公表した(同基金が行っている療養費給付事業による.同基金では2017年4月にも,2巡目に事故当時4歳の患者が存在することを明らかにしている).同基金では,福島県内の方14人に再手術による追加給付を行っており,そのうち12人は再発・転移によるものとのことである.

 現在の調査の枠組みでは,患者の全体数すら把握できていない.また,再発・転移の数も全体は見えない状況に置かれている.

 一方で,ICRPは新たなドラフト文書に対してコメントを募集している(9月20日まで. http://www.icrp.org/consultation.asp?id=D57C344D-A250-49AE-957A-AA7EFB6BA164 )が,この文書は6月下旬からの公開であるにもかかわらず,すでに,「Childhood thyroid cancer cases found in Fukushima Prefecture are unlikely to be the result of radiation exposure after the accident.」と記載されている(今号の牧野氏の連載参照).

  幾重にもねじれた状況の中で,次期検討委員会は始まることになる.

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