鈴木達治郎 まだ事故は終わっていない
「福島原発事故の経験、反省と教訓を肝に銘じて、エネルギー政策を進めていくことが、エネルギー政策の原点である」
「原子力発電への依存度をできる限り低減する」から「最大限の活用へ」。これが、2025年2月に発表された政府のエネルギー政策である。ただ、冒頭には、「福島原発事故の経験、反省と教訓を肝に銘じて、エネルギー政策を進めていくことが、エネルギー政策の原点である」との言葉は残っている。しかし、示された政策はあたかもその「原点」を忘れたかのような内容だ。
事故直後、当時の民主党政権は「エネルギー政策をゼロから見直す」という方針で、国民的議論も実施。その結果、「2030年代に原発ゼロをめざす」政策が決定された。当時は、事故の反省と教訓を踏まえ、「二度とこのような事故を起こしてはならない」「福島から避難された方々に寄り添った復興をめざす」が合言葉のように繰り返された。実際、国会では超党派の取り組みで「原子力規制委員会」が設立され、被災者に寄り添った「子ども被災者支援法」が成立したのである。
しかし、現状はどうか。脱原発政策を進めるための原発の「寿命」(原則40年、例外的に60年まで)の延長が決められ、さらに「更新や新設」も政策に入れられた。事故当時全面的な見直しを議論した「核燃料サイクル」も、ほとんど議論のないまま、毎年2000億円以上の費用を国民に負担させながら継続している。避難民への支援は徐々に打ち切られ、避難区域は年間20mSVという高い線量基準のまま解除されつつある。事故にかかわる費用も、議論がないまま、国民負担が増加していく。現実は、廃炉措置も避難住民の生活も、そして放出された放射性物質も、究極的解決策が決まらないまま、課題がまだ残っている。事故自体の原因究明も完全には解明されていない。これらを見ると「事故はもう過去のこと」として、政策を進めているようにしか見えない。何よりも事故直後に発令された「原子力緊急事態宣言」はいまだに解除されていないのだ。
「まだ事故は終わっていない」。3.11が来るたびに、心に刻むこの言葉。原子力に従事してきた人間として、私はこの言葉を忘れない。





