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3.11を心に刻んで

鈴木達治郎 まだ事故は終わっていない

「福島原発事故の経験、反省と教訓を肝に銘じて、エネルギー政策を進めていくことが、エネルギー政策の原点である」

2025年2月・第7次エネルギー基本計画「総論」より)

*  *

 「原子力発電への依存度をできる限り低減する」から「最大限の活用へ」。これが、2025年2月に発表された政府のエネルギー政策である。ただ、冒頭には、「福島原発事故の経験、反省と教訓を肝に銘じて、エネルギー政策を進めていくことが、エネルギー政策の原点である」との言葉は残っている。しかし、示された政策はあたかもその「原点」を忘れたかのような内容だ。
 事故直後、当時の民主党政権は「エネルギー政策をゼロから見直す」という方針で、国民的議論も実施。その結果、「2030年代に原発ゼロをめざす」政策が決定された。当時は、事故の反省と教訓を踏まえ、「二度とこのような事故を起こしてはならない」「福島から避難された方々に寄り添った復興をめざす」が合言葉のように繰り返された。実際、国会では超党派の取り組みで「原子力規制委員会」が設立され、被災者に寄り添った「子ども被災者支援法」が成立したのである。
 しかし、現状はどうか。脱原発政策を進めるための原発の「寿命」(原則40年、例外的に60年まで)の延長が決められ、さらに「更新や新設」も政策に入れられた。事故当時全面的な見直しを議論した「核燃料サイクル」も、ほとんど議論のないまま、毎年2000億円以上の費用を国民に負担させながら継続している。避難民への支援は徐々に打ち切られ、避難区域は年間20mSVという高い線量基準のまま解除されつつある。事故にかかわる費用も、議論がないまま、国民負担が増加していく。現実は、廃炉措置も避難住民の生活も、そして放出された放射性物質も、究極的解決策が決まらないまま、課題がまだ残っている。事故自体の原因究明も完全には解明されていない。これらを見ると「事故はもう過去のこと」として、政策を進めているようにしか見えない。何よりも事故直後に発令された「原子力緊急事態宣言」はいまだに解除されていないのだ。
 「まだ事故は終わっていない」。3.11が来るたびに、心に刻むこの言葉。原子力に従事してきた人間として、私はこの言葉を忘れない。

 

(すずき たつじろう・NPO法人「ピースデポ」代表)
 
 
岩波書店編集部編 2021年3月刊
A5判 ・ 並製 ・ 108頁 定価 880円

「3. 11を心に刻んで」は、2011年3月の大震災を忘れず考え続ける場として、同年5月にスタート。
以降、300名を超える筆者により岩波書店のHP上で書き継がれてきたWEB連載です。
(現在は3カ月に1度「web岩波 たねをまく」で連載継続中
連載は単行本『3.11を心に刻んで』(品切)と9冊の岩波ブックレットにまとまっています。
 震災に思いを寄せて綴られた言葉の数々にふれていただければ幸いです。

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