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3.11を心に刻んで

天真みちる「夢を届け続けたい」

観劇を心の支えに生きている方がいる。
私は、これから生きていくにあたって、その方々の為に身を捧げよう、と心に決めた。

(天真みちる『こう見えて元タカラジェンヌです』第22場、左右社、2021年)

*  *

 現在、新型コロナウイルスが世界中で猛威をふるい、緊急事態宣言の発出と解除が繰り返され、緊張した状態が続く日々の中、私事ではありますが約2年半ぶりに再び「舞台に立つ」ことを決断しました。
 2018年に宝塚歌劇団を卒業した時、「もう2度と舞台には立たない……は、言い過ぎかもしれないけど、きっともう男役を演じることは無いだろう」と思い、今日まで生きてきたのですが、コロナ禍でも負けずに、ひたむきに「タカラヅカを愛する方々へ夢をお届けする」現役タカラジェンヌの姿に背中を押された気がして……。
 
 それは、10年前、自分自身も深く心に決めた想いであったことを思い出したんです。
 2011年3月11日、当時、宝塚歌劇団花組『愛のプレリュード/Le Paradis!!』宝塚大劇場公演の千秋楽を終え、数日間のお休みを頂いていた入団6年目だった私は、突如テレビから流れてきた地震と津波の速報に度肝を抜かれました。
 すぐに、家族や友人、そして劇団の方々と互いに連絡を取りあい、数日後、全員の無事が確認できた時は本当に安堵しました。
 ただ、このような状況の中、通常通り公演を行って良いのか、という問いに当時の花組全員がぶち当たりました。
 私たちは来る日も来る日も「今どうすべきなのか」を真剣に話し合いました。そして、「このような時だからこそ、普段通りに宝塚が公演していることで安心する方もいる」という当時の理事長のお話によって、「公演をする」という方向へ全員の足並みが揃いました。
 
 そして迎えた東京公演初日──
 「観に来て下さるお客様はいるのか」
 「私たちの想いはどう受け止められるだろうか」
 
 公演すると覚悟は決めたつもりでも、いざ本番を迎えると不安で不安でたまりませんでした。
 すると──
 幕が上がった瞬間、はち切れんばかりの拍手が鳴り響き、目の前には、たくさんのお客様の姿が広がっていました。
 その光景を目にした瞬間、今までの不安な気持ちは全てどこかへ飛んでいき、深い深い感謝の気持ちで胸がいっぱいになりました。 この時の事は一生忘れません。
 
 現在3度目の緊急事態宣言下にあります。 だからこそ、私は「夢をお届けする」ことをやめない──
 あの時に感じた想いが、私を支え、突き動かしてくれます。

 
(てんま みちる・元宝塚歌劇団花組男役)
 
 
岩波書店編集部編 2021年3月刊
A5判 ・ 並製 ・ 108頁 定価 880円

「3. 11を心に刻んで」は、2011年3月の大震災を忘れず考え続ける場として、同年5月にスタート。
以降、300名を超える筆者により岩波書店のHP上で書き継がれてきたWEB連載です。
(現在は隔月で「web岩波 たねをまく」で連載継続中
連載は単行本『3.11を心に刻んで』(品切)と9冊の岩波ブックレットにまとまっています。
 震災に思いを寄せて綴られた言葉の数々にふれていただければ幸いです。

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