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八代目 尾上菊五郎 [表紙に寄せて]光と影[『図書』2026年2月号より]

 このタペストリーに描かれているのは、単に光が当たって生まれる影ではなく、光そのものが成立するために、はじめから内に抱え込んでいる影なのだと感じています。物の世界では、光があれば必ず影が生まれます。しかしこの作品に宿るのは、光と影が切り分けられないまま、一つの存在として均衡を保っている姿です。渦が内へと巻き込み、同時に外へと広がろうとする力の釣り合いの中で形を成すように、光もまた影を伴ってこそ光として在るのだと思います。

 腐海は一見、すべてを滅ぼす存在のように映りますが、同時に大地を浄化し、王蟲は命を再生へと導いてゆく。破壊と再生、生と死という相反するものが、一つの世界の中で同時に息づいている。その只中に立つナウシカは、慈しみに満ちた存在でありながら、怒りや激しさという影を自らの内にも抱え、そのことに向き合い続けています。

 またクシャナは、身内の中で食うか食われるかの争いの環境に身を置き、戦う道を選びながらも、本当はナウシカのように慈しみの道を生きたかった者なのでしょう。ナウシカに出会い、自らが生きられなかった「光」を託す姿は、人が人に希望を渡す瞬間にも見えます。光と影は分かたれるものではなく、誰の中にも同時に在る。そのことを、このタペストリーは静かに、しかも力強く語りかけているように思えてなりません。

(はちだいめ おのえきくごろう・歌舞伎役者)


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