真 鍋 真「また今日も恐竜と鳥の話をしています」
「出会えたことに感謝しています」
(会津若松市の小学3年生の言葉)
2011年4月から、岩手県陸前高田市や福島県いわき市などの被災した博物館のお手伝いに行くようになりました。5月からは、地元の博物館関係者と一緒に、避難所や仮設住宅の集会室、小学校などで、恐竜をテーマにお話会を開くようになりました。博物館は無くなっていないことを知ってもらいたい、博物館を忘れないでほしい、という地元の関係者の気持ちを知り、同行するようになりました。ここ数年は年に数回、福島県の会津若松市や喜多方市の小学校を訪問しています。会津には、震災後に浜通りから避難して来た子どもたちを学校ごと受け入れている地域があるからです。 今年95歳の水野丈夫東京大学名誉教授が2011年から実施されている、命のつながりに関する特別授業のお手伝いです。
私は子どもたちに、恐竜は完全に絶滅してしまったわけではなく、その一部は鳥類となって今でも進化を続けていることを話します。今から約6600万年前のある日、現在のカリブ海のあたりにあった海に、巨大な隕石が衝突しました。粉塵で大気圏に、太陽光線を遮るような分厚い層ができてしまいました。気温が急激に低下して、植物の光合成が低下するような状態が2年ほど続いたと考えられています。哺乳類や鳥類の多くは、体が小さいことで、必要とする食料が少なくて済んだために絶滅を免れ、現代まで生命のリレーが続いています。
あれから10年。今の小学校には、自分自身の震災体験を記憶している子どもはいません。先日、会津の小学3年生の感想文に「真鍋先生に出会えたことに感謝しています」とありました。被災地では、震災で多くを失ってしまったけれど、震災後の新しい出会いに感謝する表現を耳にすることが多くあります。その子は、大人の言葉を真似て、そのように書いたのだろうと思います。「僕も感謝しているよ」と返信しました。
その子は、なぜ感謝されるのかわからないでしょう。しかし、その子たちが大人になった時、ふと空を飛ぶ鳥を見ていて、私が彼らの世代にリレーしたかったことに気がつく瞬間があるかもしれません。そんなかすかな願いを胸に、また今日も若い人たちに恐竜と鳥の話をしています。
(現在は隔月で「web岩波 たねをまく」で連載継続中)