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山本貴光 岩波文庫百話

第22話 総目録のあゆみ

 岩波書店はこれまで何度か岩波文庫の全体像を示す目録を刊行している。私が手にしているのは次の4種類。

 ❶『岩波文庫総目録 1927‒1987』(1987)

 ❷『岩波文庫解説総目録 1927~1996』(全3冊、岩波文庫別0‒1~3、1997)

 ❸『80年版 岩波文庫解説総目録 1927~2006』(2007)

 ❹『90年版 岩波文庫解説総目録 1927~2016』(2017)

 なお、この他に❷の文庫3巻を1冊にまとめた特装版、同じく同書のデータを収めたCD‒ROM版がある。また、❸に関連して『岩波文庫の80年』(岩波文庫別18、2007)という本がある。これは、同書刊行時点での岩波文庫の刊行順全書目リストと索引を中心に編まれた本だ。この他に『岩波書店七十年』『同八十年』『同百年』のように、岩波書店が刊行した全書目を掲載した本や、ひょっとしたら初期の『岩波文庫 解説目録』は、在庫書目がそのまま既刊全書目といったケースがあるかもしれないが、それらは脇に置いておこう。

 さて、上の4つの目録の刊行年にご注目。❶の1987年から始まって、❷は1997年、❸は2007年、❹は2017年である。そう、10年ごとに出ている。ここで思い出したいのは岩波文庫の創刊年で、これは1927年だった。つまりそれぞれの本は、岩波文庫創刊から60年、70年、80年、90年という切りのよいメモリアルイヤーに刊行されたものだった。

 こうした総目録は、いつからあるのだろうと思って❶を見てみると「まえがき」にこう記されているのが目に入る。

 「小社は創刊60年を記念する企画をいくつか用意したが、そのうちで何にもまして実現したいと願ったのは『岩波文庫総目録』の刊行であった。(中略)岩波文庫の足跡を記録にとどめることは、創刊の意図を持続してきたものとして当然の責務であると考え、『岩波文庫総目録』の刊行を計画した。創刊以来の基本的事項のすべてを収めた目録の刊行は、初めてのことである。この総目録の刊行が岩波文庫創刊60年を記念するものであると同時に、岩波文庫のデータベースとして広く活用されることを小社は願っている」(同書、iページ)

 つまり、岩波文庫創刊60周年を記念して作られた❶『岩波文庫総目録 1927‒1987』が、最初の総目録だったと分かる。ところで、❷❸❹が「解説・・)総目録」であるのに対して、❶だけは「総目録」であることにお気づきだろうか。「総目録」には、岩波文庫の全冊が1927(昭和2)年から年ごと、刊行順に列挙されている。掲載されているのは、月日(刊行された月日)、番号(分類番号)、著訳編者、書名、頁数、定価の6項目。作品集の場合、書名に続けて小さめの活字で収録作品名も添えられている。これに対して❷以降の「解説総目録」では、それぞれの書目に解説がついている。解説のない「総目録」は、1ページあたりに並ぶ本の点数も多くて一覧性が高い。それと比べて「解説総目録」は、解説がつく代わりに見開きごとに6冊前後の掲載で一覧性は低い。どちらもそれぞれに便利なものだ。

 「解説総目録」の目下の最新版である❹の「まえがき」に「岩波文庫90年の歩みを凝縮した本書は、まさに現代日本の文化受容の足跡を映すものであり、また世界名著辞典ともなっていると自負しています」(同書、iiiページ)とある。長年文字通り座右に置いて活用してきた読者としてもまったく同感で、古今東西の古典名著にどんな本があるかを知りたい場合、とても便利なのだ。それと同時に、長い歳月と多大なる労力を傾けてこれだけの本を文庫で読めるようにしてきたことにそのつど改めて驚きもする。

 インターネットが普及して以降は、出版社や書店や図書館がデータベースを提供するようになっているのはご存じの通り。本を探すなら、まずはネットで検索という人もいるだろう。岩波書店のウェブサイトでも、「レーベル別検索」などの絞り込み機能が用意されていて、岩波文庫だけを検索するといった使い方もできる。私もそうしたデータベースには毎日のようにお世話になっている。

 ここで少し考えてみたいことがある。こうしたデータベースがあれば、従来の紙の目録は不要になるだろうか。ここは意見が分かれるかもしれない。データベース検索で用が足りる人にとっては目録はもはやなくてもよいものに見えてもおかしくはない。私はどうかと言えば、相変わらず両方を使っている。別の言い方をすると、データベースだけでは用が足りないからだ。データベースと目録は、働きが重なるところもありつつ、小さくない違いもある。

 例えば、探したいものが明確な場合、データベースは大変便利だ。岩波書店のウェブにある「書籍検索」の入力フォームに「岩波文庫 随筆集」と入れて検索すると、45点がさっと表示される(点数は執筆時点)。目録で同じことをするのはかなり手間がかかる。他方で、目録では「これで岩波文庫の全部」という範囲が有限の物として実感できる。データベースでは、どんなに検索の仕方を工夫しても、その検索結果をもって「これで岩波文庫の全部」かどうかを確認するのは至難だ。データは存在しても検索にかかっていない書目がある可能性が残るからだ。

 また、そうかと思えば、データベースは日々手軽にデータを追加したり訂正したりと更新できるのに対して、印刷された目録はそうもいかない。次に改訂版が出るまでは、データは増えもせず訂正もされないままだ。目録は自分で勝手に書き込みをしながら使い込むうちに、よく訪れる街や建物よろしく馴染みの場所になるが、データベースは何度アクセスしても毎回まっさらな状態。という具合に両者は別のものなのである。

 この文章がお目に留まる頃には、岩波書店のウェブで岩波文庫の電子目録が公開されている予定だ。さて、どんな使い勝手か、ぜひみなさんもお試しあれ。

(やまもと たかみつ・文筆家、ゲーム作家)

[『図書』2026年3月号より]


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著者略歴

  1. 山本 貴光

    1971年生まれ。文筆家、ゲーム作家。現在、東京科学大学 未来社会創成研究院・リベラルアーツ研究教育院教授。慶應義塾大学環境情報学部卒業。著書に『文学のエコロジー』(講談社)、『世界を変えた書物』(橋本麻里編、小学館)、『マルジナリアでつかまえて』(本の雑誌社)、『記憶のデザイン』(筑摩書房)など。

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