第4話 学術(青・白)の分類
別冊をいったん措くとすると、残るは青と白の2色だ。
これも比較的説明しやすいほうから言えば、白は「社会科学」とまとめられそう。『岩波文庫解説総目録1927~2016』(岩波書店)では、白全体を「法律・政治」「経済・社会」の2部門に分けている。学術の歴史という大きな観点から見ると、社会科学は比較的新しく登場したものだ。実際、「法律・政治」部門の著者は、マキァヴェッリ(1469-1527/著者番号003)から始まり、「経済・社会」部門はトーマス・マン(1571-1641/著者番号なし)やペティ(1623-87/著者番号101)の著作が最古の部類である。また、全体の点数も他の色と比べて少ない。
それに対して青はその他全域をカヴァーしている。やはり『解説総目録』を見てみると、「日本思想」「東洋思想」「仏教」「歴史・地理」「音楽・美術」「哲学・教育・宗教」「自然科学」という7部門に分かれている。いわゆる人文学と芸術全般、それと自然科学が入っており、白帯に比べて多様な要素からなるのがお分かりになるだろう。今日の学問分類で言われる自然科学/社会科学/人文学という3分類でみると、このうち自然科学と人文学が同じ青に入っているのが面白い。
ここで青帯を例に、著者別番号について簡単に触れておきたい。現在の岩波文庫の整理番号は、7桁の数字から成る。最初の2桁はここまで説明してきた帯の色に対応するが、いまは色名で表すことにしよう。次に3桁の数字が著者固有の番号として用意されている。例えば、「青001」は世阿弥で、「002」は宮本武蔵、「601」はプラトンという具合。最後の2桁は作品番号だ。例えば、山川菊栄の『武家の女性』は「青162-01」、『わが住む村』は「162-02」、『山川菊栄評論集』は「162-03」というように、岩波文庫の各巻は「帯色2桁+著者別番号3桁+作品番号2桁」で互いに区別されている。
ところで、青帯では、このうち著者別番号の3桁目(百の位)の数字が、先ほどの部門に対応する。
0/1 日本思想
2 東洋思想
3 仏教
4 歴史・地理
5 音楽・美術
6 哲学
7 教育
8 宗教
9 自然科学
ここでも「日本思想」とそれ以外の「東洋思想」(中国・インド・チベット)を分けており、文学の「日本文学」(黄・緑)と「海外文学」(赤)の区別に通じる。
また、3の「仏教」は「東洋思想」のように思わなくもないけれど、ここには仏典の翻訳の他、法然(340)や親鸞(318)、鈴木大拙(323)なども入っており、国や地域とはまた別の分類基準が採用されている様子が窺える。
「仏教」は「宗教」ではなかろうかと思って8の「宗教」を見てみる。そこには旧約聖書や新約聖書、つまりユダヤ教、キリスト教の教典のほか、キリスト教神学が主で、コーランやハディースなど、イスラームの文書も入っている。もっとも、なにを「宗教」と呼ぶかは、それ自体が考えるに値する問題で、西洋風の「宗教」という概念で仏教その他の営みをくくれるものではないとも考えられる。
それに対して4「歴史・地理」には、日本、東洋、西洋という区別なく、それこそ古代ギリシアのヘロドトス(405)や『魏志倭人伝』を含む中国史料(401)から、イブン=ハルドゥーン(481)、コロンブス(428)、ギボン(409)、網野善彦(N402)など時代も地域もさまざまな著者や本が含まれている。
5「音楽・美術」も国内外を問わず、音楽、美術に加えて、わずかながら建築、写真、映画、漫画などの本が入っている。9の「自然科学」とともにここがさらに充実するといいなと思う。分類の観点からは、広い意味での芸術・創作に含まれる「文学」がここにいてもおかしくはないが、先に見たように、「文学」は独立した大きな場所を与えられている。
6「哲学」は、古代ギリシアから現代に至る西洋哲学の書物を中心として、言語学、心理学、精神分析などの近接領域も含まれている。そんな中、田辺元(694)に目を引かれる。というのも、西田幾多郎(124)、和辻哲郎(144)、三木清(149)、野田又夫(N114)といった「哲学」に分類されてもよさそうな人びとが1「日本思想」にいるからだ。
もっとも分類とはなかなか厄介なもので、多様な人や書物を限られたカテゴリーにきれいに分けるのは至難の業だ。どれだけ工夫しても、必ずカモノハシのように分類に困る存在が出てきてしまう。
7「教育」はコンドルセ、ペスタロッチー、フレーベル、クループスカヤの四人のみ。
最後に9「自然科学」だが、古くは創刊書目にポアンカレの『科學の價値』(田邊元譯)が入って以来、ヒポクラテス(901)、ニュートン(904)、コペルニクス(905)、ガリレイ(906)、ファラデー(909)、ダーウィン(912)、ファーブル(919)、アインシュタイン(934)をはじめ、自然科学と数学の古典が収められている。時期としては19世紀後半から20世紀前半にかけての本が多いようだ。
以上のように全体を大きく眺めわたしてみると、分野によって濃淡はあるものの、万学の各方面に枝葉が伸びている様子が見てとれる。その各部については、次回以降見てみることにしよう。
(やまもと たかみつ・文筆家、ゲーム作家)
[『図書』2025年6月号より]