第19話 日本の古典
岩波文庫には、日本の古典を集めたコーナーがある。帯の色でいえば黄色で、私の目下の集計では現時点で258点344冊が入っている。ただし、この数字は同じ本に新旧版がある場合、1点と数えたもの。また、冊数は1つの作品が複数冊に分かれているものをすべて数えた結果である。例えば、『源氏物語』(全9冊)は1点9冊という具合。
ところで一口に「古典」といっても分野によって指すものもさまざま。日本の古典についてはどうかといえば、「慶應4年(1868)以前に日本で出版・書写された書籍」という『図書館情報学用語辞典 第5版』(日本図書館情報学会)の定義を第2話でご紹介した。江戸の終わりと明治の始まりに境界線を設けるという分け方だ。
さて、黄帯の全書目をリストにしてみると、全体が大きく3つの部分に分かれているように見える。というのは、リストを著者別分類番号順に見ると、2箇所に空白地帯というか、使われていない番号がまとまって現れるのだ。こうした空き番号を見ると、ここには将来新しい書目が入るかもしれない、という期待のような気分も湧いてきて、ちょっと楽しい。
具体的には、著者別分類番号1番の『古事記』から始まって、44番の『日本往生極楽記・続本朝往生伝』までが最初のグループで、時代でいうと奈良から平安(12世紀以前)に相当する。ただし、このうち10、11、42番は未使用のようで、都合41の著者が登録されている勘定である。いま、便宜的に「著者」と呼んでいるけれど、『竹取物語』のように著者不明の場合もある。また、45番から99番はいまのところ使われていない。
続いて100番の鴨長明『新訂 方丈記』から143番の『太平記』までが2つめのグループ。同じく時代でいえば鎌倉から室町(12世紀末から16世紀)だろうか。114番は未使用に見えるので、都合43の著者が登録されていることになる。これは先ほどの第1グループとほぼ同じ数だ。同じく144番から199番は未使用。
そして200番の『毛吹草』から286番の『説経節 俊徳丸・小栗判官 他三篇』までが3つめのグループで、江戸(17世紀から19世紀)に当たる。私が確認した範囲では、205、228、229、239番は該当する書目が見当たらない。これを勘案すると、登録されている著者は83で、先ほどの第1、第2グループを合わせたのと同じくらいになる。287番から999番までは未使用だ。
こうして見てみると、❶奈良から平安(12世紀以前)、❷鎌倉から室町(12世紀末から16世紀)、❸江戸(17世紀から19世紀)と、大きく時代で区切りつつ奈良から江戸の終わりまでを広く扱っているのが分かる。また、先ほどのカウントが正しい場合、黄帯全体で登録されている著者は167となる。ここに著者別分類番号のついていない9点を加えて176が、さしあたって黄帯の著者数ということになるだろうか。ついでながら明治以降は日本の近現代文学を収める緑帯に入っており、黄帯と緑帯の双方で日本文学全体を収めているわけである。
さて、そんな日本古典文学には、どんな書目が入っているか、もう少し近づいて眺めてみよう。比較の材料として古典文学全集と比べてみる。そのうちのどの程度を岩波文庫がカヴァーしているかを見てみようというつもり。具体的には「日本古典文学大系」(全2期全100巻、岩波書店、1957―1967/以下「大系」と呼ぶ)を参考にする(後に「新日本古典文学大系」も出ている)。といっても、ここに全書目のリストを掲げてお見せするわけにもいかないので、「大系」の全巻リストはネットなどで見比べていただければ幸いである。
「大系」は2期に分けて刊行されており、第1巻『古事記 祝詞』から第66巻『連歌論集 俳論集』までが第1期。第67巻『日本書紀(上)』以下が第2期である。「大系」と黄帯を比べてみると、いま述べたうちの「大系」第1期全66巻のうち、多くは岩波文庫に入っているのが分かる。「大系」にあって黄帯にないのは「大和物語」(第9巻に収録)、『連歌集』(第39巻)、『謡曲集』(上下、第40―41巻)、『浄瑠璃集』(上下、第51―52巻)、『歌舞伎脚本集』(上下、第53―54巻)、『風来山人集』(第55巻)で、その他は概ね入っている。ただし、「大系」の『連歌集』『謡曲集』『蕪村集 一茶集』のようなアンソロジーについては、黄帯と収録内容に重なりがあればよしとした。
謡曲や浄瑠璃などのジャンル別アンソロジーはともかくとして、「大系」第1期にあって黄帯に入っていない書目のなかで気になるのは『風来山人集』だ。風来山人とは、江戸の博物学者にして戯作や浄瑠璃の作者、あるいはエレキテルなどの発明でも知られる平賀源内(1728―79)のこと。あれれ、源内先生は岩波文庫にいなかったかしら、と確認してみると、黄帯にいないだけでなく、青帯にも見当たらない(あちらこちらで言及はされている)。もしまだいないのであれば、いまでいう博物学書のような『物類品隲(ぶつるいひんしつ)』や、狂文集『風来六部集』などを入れるのはいかがだろうか。
ところで、「大系」の第2期はアンソロジーもやや多めで、黄帯との比較が難しいこともあってここでは省略する。ただ、その第2期「大系」にあって黄帯にない書目として意外に感じたものに『懐風藻』と『日本霊異記』がある。これはぜひ黄帯にも入れてほしいところ。時代ごとの書目については、また別に眺めることにしよう。
(やまもと たかみつ・文筆家、ゲーム作家)
[『図書』2026年2月号より]




